2013年8月アーカイブ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
脳解剖学者である著者が、脳卒中を経験しそこから回復する過程を、その脳解剖学者という視点で振り返る。

脳卒中というと、どちらかというと不幸な病気と言う印象を持っていたが、本書で著者が描くその体験はむしろ恍惚とした幸福な体験として描かれている。母親のジジと辛抱強く協力して、脳卒中によって失った脳の機能を回復していく様子に、脳の未知の力を感じてしまう。また、合わせて思うように話したり行動できない脳卒中患者に対する考え方も改めてくれる。

後半はやや宗教的とも聞こえるような、著者の脳卒中体験が基になった感覚的な説明だったため理解しにくいと感じたが、全体としては脳卒中や脳に対して興味を抱かせてくれた。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
現在アメリカを中心に教育機関がインターネット上で高品質な授業を無料で受けられる仕組みが整いつつある。その背景と現状、問題点を語る

1年ほど前にカーンアカデミーの取り組みを知ってオープンエデュケーションに非常に興味を持った。本書は手にとったのもそんな理由からだ。

面白いのはその発端となった出来事である。最初、アメリカの各大学は、利益を見込んでオンライン上で授業を公開しようとしたのだが、あまり収益があがらないと気付き各大学が撤退するなか、マサチューセッツ工科大学が「であればいっその事無料で公開しよう」となったというのだ。これはまさに日本では起こりえない発想なのだろう。そして、そんな流れは、iTunesやYoutubeなどさまざまなインターネットやIT技術の発展によって加速する事になったのだ。

CourseraやEdX、Udacityといった様々なオープンエデュケーションフォーマットについて語るとともに今後の課題についても語っている。

そんな中でも興味ひいたのは大学などの教育機関が持つ「強制力」の話。誰もが無料で勉強できるようになったかといってすべてが解決する訳ではないというのだ。つまり、宿題をやってこなければ怒る先生がいて、落ちこぼれになったら馬鹿にする嫌な生徒がいて、ある程度の点を試験でとらなければ落第するシステムがある。そういうシステムがあって初めて勉強を全う出来る人が世の中の大部分だと言うのである。オープンエデュケーションの今後の課題は、無料であるなかでどうやってその強制力をつけるか、ということなのだ。

とても勉強したくさせてくれる一冊。そして、改めて今後のオープンエデュケーションの流れを考えると、英語ができない日本人のハンデは世界との知識の格差を広げていくだろうと実感させられた。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
横浜のホテルが犯人グループに占拠された。偶然居合わせた武本(たけもと)は状況を打開しようと、ホテルマン西島(にしじま)とともに行動を起こす。

「それでも警官は微笑う」シリーズの第3弾である。強面だが職務に忠実な武本(たけもと)と、饒舌だが切れ者のキャリア潮崎(しおざき)を中心に展開されるシリーズである。本作品はホテルの占拠と言うややシリーズの他の作品と比較すると派手な幕開けである。犯人グループの一人から手に入れた無線によって武本(たけもと)は潮崎(しおざき)と交信することになる。

犯人も無線を聞いているはず、という前提の中で武本(たけもと)に意思を伝えようと、潮崎(しおざき)はその饒舌さからくる世間話のなかに様々な情報を差し込んでいくのである。

そんな事件の渦中にありながらも、警察という組織の中で迅速な行動をできずにいる潮崎(しおざき)と同僚のやりとりが面白い。正義を全うしようとする警察間同士でも、それぞれ信じる方法は異なり、それが大きな組織の機能を弱めてしまうのである。そんなシリーズに共通して潮崎が持つ葛藤もまた物語の見所のひとつである。

技術はどんどん向上し、その恩恵に国民は積極的に与っている。同時に、技術の進歩に応じた、今までにはなかった犯罪も起こっている。そんな中、警察は取り残されつつある。その遅れをマンパワーと、団結力で補っている。それがこの国の現状だ。

全体的には日明恩らしさが所々に感じられつつも、事件自体を派手にしすぎたせいか、人間関係などの人と人との感情や世の中のシステムに対するやるせなさのようなものが他の作品と比較すると少なかった点が残念である。本作品の終わり方はまだまだ続編がありそうな雰囲気なので次回作に期待したい。

【楽天ブックス】「やがて、警官は微睡る」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
本所深川の同心平四郎(へいしろう)と甥っ子弓之助(ゆみのすけ)の繰り広げる物語。

序盤は平四郎(へいしろう)が弓之助(ゆみのすけ)やその友人のおでこの助けを借りながら諍いを解決していく。そんななかで次第に江戸の時代の人々の暮らしが見えてくる。

写真や動画という技術のなかった江戸のような時代の人々の生活を僕らはなかなか想像することができないが、本書はそんな生活を本当に現実味を帯びた形で見せてくる。生きている中で人間関係に悩み、将来に悩み、恋に悩むのはいつの時代も変わらないのだろう。

そして、そんな遠い時代のことを弓之助(ゆみのすけ)やおでこといった愛される登場人物を作り上げて、面白おかしく見せてくれるのは、やはり著者宮部みゆきの技術あってのことだろう。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
金森信二(かなもりしんじ)は生きていくために寿司職人になることを決意する。しかしそこで出会った年下の男ゲソこと徳武光一郎(とくたけこういちろう)はその才能と努力で彼を一気に追い抜きのし上がっていく。

序盤は寿司職人たちの厳しい生き方が描かれているが、同時に懐かしい昭和の時代を感じる事が出来る。その寿司屋が両国に位置する事から、1985年に現在の場所に両国国技館が完成した事で大きく変わっていくのである。

前半はそんななかで兄弟子の嫉妬やいろいろな人間関係のなかで努力する金森(かなもり)と、次第に頭角を現していくゲソの姿が描かれている。

後半では金森(かなもり)とゲソは社長とその右腕となってバブル時代をのし上がっていくのである。時に過剰ともおもえるゲソの行動や決断は一体どこへ向かっていくのか。

正直もう少し寿司職人の人生に迫った物を期待したのだが、どちらかというと寿司はただ物語に軽く味を添える素材の一つでしかなく、若い2人の成り上がり物語となっている。

タイトルから想像した内容とは若干異なるが、時代背景を反映しているのでそれなりに楽しむ事が出来るだろう。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
Aliが遺体となって発見され、犯人として疑っていたxxが殺された。一体Aとは誰なのか。不安に怯えながらAria、Spencer、Emily、Hannaは日々の生活を送る。

「Pretty Little Liars」のシリーズ第3弾である。毎度のごとく恋愛や十代の女性にありがちな女性同士の見栄の張り合いや、派閥意識のなか普段の生活を送りながらも、4人はAと名乗る人間から来るメールなどに怯え続ける。そんな中やがてEmilyは自分のAliとの記憶のなかに抜け落ちている部分があることに気づくのである。そして、両親に寄るとどうやら幼い頃にもそういう経験をしたことがあったという。どうやらその抜け落ちた記憶の部分に真相にたどり着く鍵があるようだ、と不安になっていくのだ。

大きく物語の動く第3弾。すぐに続きを読みたくさせる。

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
翻訳家である著者が、翻訳者の間違えやすい英語表現、文や、翻訳者がやってしまいがちなことについて語る。

英語の本を読んでいるとたまに意味のとれない文章や表現に出会う。自分一人で読んでいる場合は、物語全体の流れに差し支えない限り特に問題はないのだが、翻訳をするとなるとそうも行かないだろう。本書を読んで最初に驚いたのが、プロである翻訳者もそこらじゅうで間違った訳をしてそれが売り物として世に出回っているのである。

序盤は翻訳者が陥りがちなよくない翻訳傾向について語っている。例えばやたらとカタカナ言葉を翻訳に使ってしまう訳。外来語がカタカナとして定着してきてはいるが、どこまでそれを用いるのかが難しいのだという。例えば現代ではすでに「wine」は「葡萄酒」ではなく「ワイン」と訳した方が通じやすいだろうが、「店がオープンした」とか「道がカーブしている」あたりから翻訳者としては許容できなくなってくるそうだ。この辺の感覚はまた何年か経つと変わっている事だろう。

中盤からは英語のなかの間違えやすい表現について紹介している。例えば「midnight」などは僕ら日本人は「真夜中」と訳しがちがだ、僕自信は「真夜中」というと夜中の12時から3時ぐらいをさすような印象を持っているが、英語の「真夜中」は「深夜12時」のことなのだという。またイギリスの駅のシーンで「entrance」を「改札」と訳すのも間違いだそうだ。なぜならイギリスの駅には改札がないから、だとか。

嫁が読むほど、もはや翻訳は英語力ではなく文化に対する知識と言う気がしてくる。また、海外の作家の本は出来る限り英語で読もうと本書を読んで決意させられた。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
先日読んだ垣根涼介の「人生教習所」という物語が小笠原諸島を舞台としていたため島の歴史に興味をもって本書を手に取った。

戦争に大きく影響を受けた場所について考えると、どうしても沖縄がすぐに思い浮かぶが、小笠原の歴史も予想以上に興味深い。小笠原の所属している国がアメリカから日本に変わるときはもちろん、そこに住んでいいた人たちには国籍の選択権と3年という猶予が与えられたのだが、そのタイミングでどの段階まで教育を受けていたか、という点が、アメリカか日本かを選択するうえでとても重要だったようだ。

兄弟、家族で異なった国籍を持ち、違った文化で生きる事を強いられるというのはどんな気持ちなのだろう。

本書のなかでそんな時代を生きた人々が当時を語る様子が描かれている。その内容はいずれも印象的である。アメリカ支配から日本支配になったことによって、過去の方が現在よりも豊かだった。という時代がこの島には存在したのである。

遠い場所で行われた国同士の取り決めによって翻弄されてた島。そこでは一体どんな文化ができあがるのだろう。いつか小笠原にいってみたいと思った。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
「検事の本懐」に登場する元検察官の佐方貞人(さかたさだと)を扱った物語。本作品では息子を交通事故で失ったにも関わらず、加害者の権力者が、何の罰を受けない事に復讐を誓った夫婦の事件を担当する。

佐方(さかた)が裁判に向かう様子と、時間を数ヶ月前に遡って息子の復讐をしようと計画する夫婦の様子が交互に描かれる。終盤に向かうにつれてその二つの物語が一つに重なっていく。復讐を誓った夫婦が何らかの事件を起こしたのだろうがその詳細が裁判が始まるまで伏せられている点が面白い。

復讐は成功したのか、裁判の被告人は誰で佐方(さかた)は誰の弁護をしているのか。そして、裁判の行方を左右する最後の証人とは一体誰なのか。予想を越える展開だけでなく、正義感の強い佐方(さかた)の、胸に響く言葉は本作品でも健在である。

誰でも過ちは犯す。しかし、一度ならば過ちだが、二度は違う。二度目に犯した過ちはその人間の生き方だ

著者柚木裕子は今個人的に注目している作家である。佐方(さかた)弁護士を扱った作品だけでなく、今後の作品すべてが楽しみである。

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オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
いつから「デパート」という言葉を耳にしなくなったのだろう。いつから「デパート」という言葉は古くさい響きを持つようになったのだろう。本書の登場人物の一人である加治川(かじかわ)も幼い頃のデパートの思い出を持つ一人。大人になった今娘をデパートに誘うが、「ダサい」と一蹴され、それでも良き日の思い出を捨てきれずに深夜のデパートにやって来たのである。同じように複雑な事情を抱えた人々がデパートに集ってひと騒動繰り広げるのである。

かつては街を見下ろせたデパートの屋上は、いつのまにかオフィスビルに見下ろされるようになり、自殺を防止のためにフェンスが張り巡らされて眺めを楽しめる場所ではなくなった。物語中に散りばめられているそんな現代のデパート事情が興味深い。

物語としては登場人物が多いのとめまぐるしく変わる視点や舞台にやや追いつかない部分もあったが雰囲気が楽しむ分には問題ないだろう。喜劇として作られているとはいえやや作られすぎたエピソードや人間関係に抵抗を感じた。それでも幼い頃両親や友人と行ったデパートにもう一度足を運びたいと思わせる内容である。

【楽天ブックス】「デパートへ行こう!」

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