2013年6月アーカイブ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ネット上にある人物の自殺する様子を撮影した動画がアップロードされていた。プロダクションで働く孝則(たかのり)はその真相を探ろうとする。

「リング」シリーズの鈴木光司が久しぶりにあたらしいホラー小説を描いたのか、とあまり期待せずに読み始めたの。四人の少女を連続して誘拐して殺人した殺人鬼のその動機はなんだったのか。序盤はすこし謎めいた殺人事件にしか見えなかった物が、読み進めるに従って読者は「リング」と無関係ではない事に気づくだろう。

孝則(たかのり)はその自殺映像を託されてその謎を解明しようとする一方で、婚約者である、丸山茜(まるやまあかね)が最近見知らぬ人につけられていると訴える。幼いころに事件に巻き込まれた経験のある茜(あかね)にとっては無視できない出来事なのである。

そうした複数の不思議な出来事がやがて一本の流れへと繋がっていくのである。「リング」シリーズで、「ループ」を読んだときの驚きがここにもあった。かつての人気歌手や人気漫画かが、過去の人気作品にこだわりすぎると見苦しさを感じてしまうが、ここまで見事に過去の名作を蘇らせてくれると、そのすごさに感心してしまう。

まだまだ続編がありそうな内容。生き返った「リング」はどこへいくのか、今後の展開が楽しみである。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
関西圏の私鉄グループ阪急の路線の今津線で繰り広げられる人々のドラマを描く。

阪急電車はドラマを描く舞台を電車や駅に限定しただけにすぎない。電車のなかには通勤、通学など、送り迎えなど様々なドラマが繰り広げられる。本書が描くのはそんななかでも強く生きようとしている女性たちに焦点をあてているように感じる。

本書が扱う10人ほどの女性のなかでも特に印象的なのは、婚約者を同僚に奪われてその相手の結婚式に復讐を決意して参加する翔子(しょうこ)の生き方であるが、そのほかにも女子高生悦子(えつこ)と年上の馬鹿な彼氏の話や、ランドセルを背負った誇り高き少女の話など、魅力的な登場人物があふれている。

ローカル線ののんびりとした雰囲気を、強い女性たちの信念で味付した見事な一冊。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
四つの作品を集めた短編集であるが、一作目の「Rita Hayworth and the Shawshank Redemption」は映画「ショーシャンクの空に」の原作であり、三作目の「The Body」は映画「スタンドバイミー」の原作という短編集ながらもそれぞれの物語は非常に濃密で完成度の高い出来となっている。映画が非常に忠実に描かれているので、いまさらこの二つの作品の素晴らしさは語る必要もないが、四作目の物語「The Breathing Method」もまた強烈な作品に仕上がっている。

主人公である男性は、ある物語を語る会に通うようになる。そこでは毎回参加者の一人がほかの参加者に向けて物語を語るのだが、あるクリスマスの晩に参加者の一人の医師が過去を思い返してある女性の物語を語るのである。その女性は役者を夢見てニューヨークに出てきたが、出会った男と恋に落ちて妊娠し、男が去ったあとも一人でその子を産んで育てようとして、医者であるその語り手のもとを訪ねたのだと言う。彼女の産まれてくる子供のための強い意志は、その語り手である医師の心に永遠に刻まれることとなったのである。

出版されたのが1983年という本であるが、30年を経た今読んでも決して不満に思う事はないだろう。長く心に残るであろう作品。

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第3回大藪春彦賞受賞作品。

北朝鮮の工作員チョンが日本に潜入した。葉山(はやま)はチョンの残したものを分析してその足取りを追ううちにしだいにチョンの人間性が明らかになっていく。

北朝鮮、日本、アメリカと国をまたいで繰り広げられる諜報活動。そんな中で生きる人々を描く。僕らは諜報活動やスパイと言った言葉を聞くと、そこに関わる人々は、どこか冷血で非人間的な印象をもっているが、むしろ本書で中心となるのはその生まれ育った境遇故に、国家間の陰謀に巻き込まれていったむしろ不幸な人々である。

物語はチョンと、チョンを追う人々と、人間としてのチョンと関わる事に成った、その家族の視点で描かれる。北朝鮮に住む、チョンの家族の目線では、その言論統制の厳しさが見え、また日本に潜入したチョンの目線からは日本の物質的な豊かさが感じられるだろう。

諜報活動を扱った物語は、往々にしてわかりやすい展開にはならず、どこか難しい印象が常にあり、そういう点では本書も例外ではない。ただ、国の違いに置ける文化や豊かさの違いなどが感じられる点が新しい。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
ロシアでKGBの一線を退いたLeoと妻のRaisa、そして容姿にとった2人の姉妹の4人は質素だが平和な生活を送っていた。教師としてArisaは国際交流のイベントのために、2人の娘を連れてアメリカにいくこととなる。

「Child44」「SecretSpeech」に続く、冷戦時代のロシアを描いた第3弾。誰もが秘密警察KGBの目を恐れて生活しているロシア。前二作品でKGBの第一線から退いて両親を殺された姉妹ZoyaとElenaとともに暮らしていた。思春期を迎えた ZoyaとELenaを連れて、妻であり教師のRaisaがアメリカでアメリカの生徒たちとの交流イベントに向かうところから物語は大きく動き出す。

アメリカ人歌手Austinは、かつて共産主義を支持していたためCIAから睨まれてその活動の場所を失ったが、ソ連は彼を共産主義の象徴として再び表舞台に立つように説得しようとする。そんな陰謀に巻き込まれるRaisaとElena。そうしてアメリカで起こった出来事がその後のLeoをアフガニスタン、アメリカへと向かわせるのである。

僕ら日本人がアフガニスタンやタリバンについて意識したのはきっと9.11テロ以降であろう。本書はそんな混沌に陥るアフガニスタン、そしてそれを引き起こした冷戦時代のソ連、アメリカの関係を見せてくれる。太平洋を越えた3国にまたがって、前2作品以上に大きなスケールで展開される物語。

おそらくシリーズラストとなるであろう、むしろ終わりに近づくにつれて、読み応えのあるシリーズが終わってしまう事にさみしささえ覚えてしまう作品。

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第140回直木賞受賞作品。

千利休はその唯一にして確固たる美学ゆえにその地位を上りつめた。しかし、その美に対する信念ゆえに秀吉に疎まれ切腹を命じられる。

千利休の名前を聞いた事のない人など日本人でいるのだろうか。しかし、実際に彼が何をやっていたのか、そう考えると茶室に関わる何か、としか知らない。茶室や茶という文化が同時どのように人々に捉えられていたかすら普通は知らないだろう。本書は千利休の生活や行き方、そしてそこに関わる人たちの視点を通じてまさにそんな当時の様子を見せてくれる。

こういう風に書くと、ひどく退屈な歴史小説のように聞こえるかもしれないがそんなことはない。本書で何度も描かれる、利休の美しい物にたいする考え方は、永遠と受け継ぎたいと思わせる。むしろ日本人の物作りに対するこだわりの原点があるようにも感じられる。

本書を読むと世の中のすべてが違って見える。人の表情、仕草、歩き方、建物の形状、物の置き方...。すべてにおいてもっとも美しい方法というのがあるに違いない。きっと利休であれば最も美しい方法を選択しただろう。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第144回直木賞受賞作品。

根津遊郭で働いている定九郎は大きな時代の流れに飲まれながらも、そこで働く花魁や遣手たちとともに生きていく。

そもそも遊郭とはどういう場所なのか。吉原という言葉やその話を聞いた事はあるけれど、実際にそれがどういったものでどうやって営業されるのか、そこで働く花魁たちはどのようにそこで働く事になったか、などわからないことばかりである。本書はまずそんな僕らには馴染みのない当時の遊郭の様子を見せてくれる。

そしてまた、本書の舞台は明治時代のはじめの頃。それまで武士として生きていた人々が他の生き方を探さなければいけないという大きな変革期。ちまたでは福沢諭吉の「学問のすすめ」が広まり学ぶことの重要性を世の中が意識し始める。そんな変化のなかで自らの生き方を考える人々の心のうちに、どこか現代の人々の悩みと共通したものを感じるだろう。

日本画のような非現実的な状態でしか知らない時代の人々の生活を、より現実味を帯びてみせてくれる作品。

学問のすすめ
福沢諭吉の著書のひとつ。原則的にそれぞれ独立した17つのテーマからなる、初編から十七編の17の分冊であった。最終的には300万部以上売れたとされ[1]、当時の日本の人口が3000万人程であったから実に10人に1人が読んだことになる。(Wikipedia「学問のすすめ」

【楽天ブックス】「漂砂のうたう」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第23回山本周五郎賞受賞作品。

人々の人生を切り取った6つの短編から成る物語。

母と息子、兄と妹、先生と生徒。この世界にある様々な人間関係のなかの6つを描いている。想い通りにいかないやり切れなさや希望のない未来は、自然と人の心を過去に向かわせるのだろうか。どの物語も、楽しいわけでも悲しい訳でも、希望を与えてくれるわけでもないが、なにか染み入ってくるものがある。

特徴的なのは、どの物語も植物や昆虫が象徴的に登場する点だろう。笹の花、キタテハチョウ、シロツメクサ、カタツムリ。幼い頃は昆虫や植物と触れる機会も多かったのに大人に成るに連れてそんな時間もとれなくなる。だからこそ植物や昆虫は過去の思い出とリンクするのだろうか。

この物語全体に漂うしみじみとした雰囲気は、周五郎賞受賞を納得させてくれる。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
殺した女性の娘を守って欲しいという依頼を受けた「僕」はその中学生の女性、立花サクラに近づいく。

一度は医者を志しながらもその道を諦めて塾の講師として働く「僕」はその特殊な能力で人の心に踏み込んでいく。誰もが自分自身が一番大切でありながらも人との関係を求めるのはなぜなのだろう。人間関係というものについて考えさせられるかもしれない。

独特なリズムと雰囲気を持った本多孝好の世界。簡素な台詞や控えめの感情描写で、物語中の意味の多くを読み手に委ねてしまっている点は読者に寄って好みの別れる部分だろう。

【楽天ブックス】「ALONE TOGETHER」

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