2013年2月アーカイブ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
数学な好きな「僕」は従姉妹の女の子ユーリ、学校の後輩のテトラ、そして数学がずば抜けて得意な才女ミルカさんと、数学の先生の村木先生が出してくれる問題をもとに数学の話を繰り広げる。

過去フェルマーの最終定理に関する本を何度かトライしてみたが、どれも残念ながら大して理解することもできずに諦めてしまった。しかし本書は「フェルマーの最終定理」とサブタイトルを持ちながらも序盤は、本当に簡単な数学の知識だけで楽しめる内容で構成されている。

例えば

原点中心の単位円周上に、有理点は無数に存在するか。
aとbが偶数の原始ピタゴラス数(a,b,c)は無数に存在するか。

などである。それぞれの証明をしっかり理解しながらついていくのはやや根気がいるし、時間もかかるが、最初はまったく違う証明だと思っていたものが、実は本質的に同じ問題だったと気づく瞬間の、その驚きは伝わってくるかもしれない。きっとそんな驚きが多くの数学者たちを数学の世界にひきこんでいったのだろう。

終盤ではついにフェルマーの最終定理に話が及ぶ。とはいっても、本書で触れているのは本当にそのさわりの部分だけ。フェルマーの最終定理の証明の鍵となる谷山・志村予想やモジュラー。結局本書を読んだ後もやはりそれらの詳細は分からないままだが、読む前よりもその感覚的な部分がつかめた気がする。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
中学2年生の小林アンは日本中が注目するような、過去になかった方法で自分を殺して欲しいと同じクラスの昆虫系男子徳川(とくがわ)に依頼する。

新鮮なのは死を望むアンは、どちらかと言えば容姿も美しく、彼氏を作る事のできる女子であるという点である。友人の芹香(せりか)と幸(さち)とともに行動をともにしながらも、理不尽で狭い人間ん関係のなかで、
中学二年生の揺れ動く心のうちを描いている。女性特有の教室でのイジメ、無視、派閥争いなどの描写は他の辻村作品と同様に相変わらず力を感じる。

もう、嫌なのだ。あの日常に、外され続ける教室に、色をなくしたような毎日に、戻るのなんか、嫌なのだ。

最初は、お互いがどこまで本気なのか不信に思っていた、アンと徳川(とくがわ)は、徐々に具体的な方法を考え始める。場所はどうするのか、いつにするのか、死体はどこに置くのか。彼らが重点をおいているのは、「過去に例がないこ」である。そうやって彼らの視点で過去を振り返ってみると、考えうる限りの残酷、凶悪な犯罪の大部分はすでに起きてしまっているような気がする。

未来に希望を見いだせない現代の若者。若い辻村深月ならではの物語といえるかもしれない。

ゲシュタルト崩壊
知覚における現象のひとつ。 全体性を持ったまとまりのある構造 (Gestalt, 形態) から全体性が失われ、個々の構成部分にバラバラに切り離して認識し直されてしまう現象をいう。幾何学図形、文字、顔など、視覚的なものがよく知られるが、聴覚や皮膚感覚においても生じうる。(Wikipedia「ゲシュタルト崩壊」)

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
リーマンショックなどの不況の影響でスターバックスも徐々に当初の勢いを失っていった。そして2008年1月、ハワード・シュルツはスターバックス再生のためにCEOに復帰する。本書はその過程と、スターバックスが再生されるまでの物語である。

Google、Facebook、マクドナルド過去「成功物語」と呼べるようなものは何冊か読んだし、世の中にも溢れているが、「再生物語」となると非常に限られている。その1点だけ考えても本書は面白く読む価値があるだろう。まず序盤は少しずつ歯車の狂ったスターバックスの様子を描いている。徐々に店舗で犯罪するものを増やし、徐々にコーヒー以外の別の分野にも手を広げ始める。しかし、売り上げが伸び続けているために誰もその影響に気づかない。それでも確実にスターバックスのネジは狂い始めていたのだ。

店舗のパートナーたちは一生懸命働いています。会社を支えているのは彼らです。しかし、店に足を踏み入れると悲しくなります。伝統のサービスや挨拶はもう存在しないのです。カウンターの中で働いているバリスタたちのせいではありません。スターバックスの文化を維持し、成長させ、繁栄さあるのは経営陣の責任です。

そんな中で、ハワード・シュルツはCEOに復帰してから再生への道を模索して、多くの改善策にとりくむのだが、その内容からは、企業がその質を維持したまま大きくなることがどれほど難しいかが見えてくる。最終的に、ハワード・シュルツは短期的な利益を諦めて長期的な利益を優先する中で、不採算な店舗の多くを閉鎖することを決断するのだが、その際に各地から届く「この街のスターバックスを閉店しないで欲しい」という声は、これまでスターバックスが築いてきたものの大きさを示しているようだ。

失敗もありつつ結果としてスターバックスは再生を果たすのだが、そのためにしなければいけない辛い決断をハワード・シュルツがするにあたって、そんな彼を勇気づけるように、社員から送られる温かいメールの内容が印象的である。

あなたを信じているパートナーが、まだたくさんいることを知って欲しいのです。...わたしたちは他の企業とは違うのです。働く者にとっては、業界で最高の企業です。素晴らしい未来が来ることを心から信じています。

「スターバックス成功物語」を読んだときも感じたのだが、信念を持った会社で自らの時間を費して働くことのなんと羨ましいことだろう。まったく専門は違うがスターバックスで働いてみたくなる。

リーン生産方式
トヨタ生産方式を研究して編み出された方式であり、MITのジェームズ・P・ウォマック(James P. Womack)、ダニエル・T・ジョーズ(Daniel T. Jones)らによって提唱された。製造工程におけるムダを排除することを目的として、製品および製造工程の全体にわたって、トータルコストを系統的に減らそうとするのが狙いである。(Wikipedia「リーン生産方式」

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
残念なのは本書のタイトルや表紙はその内容を的確に伝えてないということ。むしろストイコビッチがJリーグでイエローカードをもらいながらも、すばらしい実績を残していく様子を描いていそうな、タイトルと表紙だが、実際にはユーゴ紛争を描いていてサッカー選手もそのうちの一つの要素に過ぎない。

しかし、紛争の悲劇を伝えるために、本書は何人かのサッカー選手の体験を紹介する。印象的なのは悪魔の左足と恐れられた正確無比なフリーキックで有名なミハイロビッチがようやく自らの家に帰ったときの体験である。

散々荒らされた室内に足を踏み入れ、眼を凝らすと真っ先に飛び込んできたのは、壁に飾られた旧ユーゴ代表の集合写真だった。そこには彼の顔だけがなかった。銃弾で打ち抜かれていたのだ。 「あの時の悲しさ、淋しさは一生忘れない。僕は帰らなければよかったとさえ思った。帰らなければ思い出が何もなかったように、僕の中でそのまま残っていただろう。

とはいえ、本書の焦点はむしろアメリカ、イギリスなどNATOが中心となって、その空爆の正当性を訴えるためにつくりあげる、セルビアの悪者のイメージである。10万人のアルバニア系住民を監禁したと報道されたスタジアムは実際には8000人も入れそうもない大きさだったという。報道によって世の中に「悪者はセルビア」のイメージが徐々に世の中に刷り込まれていくのに、それに対して何も出来ない著者の歯がゆさが伝わってくる。

絶対的な悪者は生まれない。絶対的な悪者は作られるのだ。
味方なんかじゃない。あんたたちが思っているような国じゃない。 アメリカの戦争に協力する法案を国会で通し、ユーゴ空爆に理解を示した国なんだ、我が日本は!

本書を読んで感じるのは、「僕らが見ている真実とは何なのだろう?」ということ。僕自身それほどあの当時コソボ紛争に関心があったわけではないが、サッカースタジアムで、クロアチアの選手であるズボニミール・ボバンが警官に飛び蹴りして、国内で英雄視されていたのを知っているし、それを疑いもなく信じていたのだ。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第5回山本周五郎賞受賞作品。

独立国家の建設を求めて放棄しようとするクルド人。イランはホメイニ体制の下でそれを抑えようとする。そんな混乱のなかの中東に2人の「ハジ」と名乗る日本人がいた。

イランイラク戦争。まだ政治に関心を持つような年齢でもなかった僕は、その名前しか知らない。しかし、戦争というのは、他の国で豊かな暮らしを送っている人にとっては他人事でも、当人にとっては人生を左右するもの、人に寄っては人生そのものでもあったりする。本書が描いているのはまさにそんな人達である。

本書は「ハジ」と名乗る2人の日本人のほかに、イランの共和国軍である革命防衛隊に属するサミル・セイフ、クルド人でクルド国家の樹立を目指すハッサン・ヘルムートの視点からも語られる。サミル・セイフは国を守るためにそのすべてを注いでいるが、革命防衛隊内の腐敗に葛藤を続ける。また、ハッサン・ヘルムートもクルドの聖地マハバードの奪還を目指す中で、イランクルドとイラククルドの諍いなどの不和にも頭を悩まされる。

そんな状況のなか、「ハジ」と名乗る日本人の一人駒井雄仁によって2万梃のカラシニコフがカスピ海をわたってクルド人に届けられようとしている。そしてその後武器を得たクルド人たちはマハバードへ向かう事となる。

かなりの部分が史実に基づいているのだろう。これほど大きな混乱を知らずに今まで生きていた自分がなんとも恥ずかしくも感じた。

本書はハッピーエンドとは言えないだろう。そもそも戦争とは悲しみしか生まないのなのかもしれない。それでも、そんな時代だからこそすべてをかけて人生を全うする登場人物たちが羨ましく思えてしまう。

イスラム革命防衛隊
1979年のイラン・イスラム革命後、旧帝政への忠誠心が未だ残っていると政権側から疑念を抱かれた従来の正規軍であるイラン・イスラム共和国軍への平衡力として創設されたイラン・イスラム共和国の軍事組織。(Wikipedia「イスラム革命防衛隊」

ルーホッラー・ホメイニー
イランにおけるシーア派の十二イマーム派の精神的指導者であり、政治家、法学者。1979年にパフラヴィー皇帝を国外に追放し、イスラム共和制政体を成立させたイラン革命の指導者で、以後は新生「イラン・イスラム共和国」の元首である最高指導者(師)として、同国を精神面から指導した。(Wikipedia「ルーホッラー・ホメイニー」

イラン・イラク戦争
イランとイラクが国境をめぐって行った戦争で、1980年9月22日に始まり1988年8月20日に国際連合安全保障理事会の決議を受け入れる形で停戦を迎えた。(Wikipedia「イラン・イラク戦争」

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本のイラストレーションの歴史を一気にまとめて見せてくれる。

そもそもイラストレーションの起こりとは何のか。著者は冒頭で語っているように、必ずしもイラストレーションにイラストレーション史が必要なわけではない。しかし、知っていて損するものでもないし、知ることによって知識も視野も広がるのである。

本書に登場する数々のイラストレーターたちは正直なところほとんど知らない名前ばかりだったが、その作品はどこかで見たようなものばかり。そうやって心に刷り込まれていることが、彼らがイラストレーションのを日本に根付かせるために大きな役割を担ってきた証拠と言えるだろう。

「スーパーリアル」「ヘタうま」など大きくカテゴリ分けするとともにその関連作品を紹介し、同時に11人のアーティストの経歴を紹介する。印象的だったのは、エアブラシを使って時代を作った山口はるみ、スーパーリアルの滝野晴夫(たきのはるお)、カールおじさんで有名なひこねのりお、そしてスイカペンギンの坂崎千春(さかざきちはる)だろうか。

とてもすべての作品とイラストレーターの名は心に刻みこめないが、この4人はしっかり覚えておきたい。誰でもきっと一度はその作品を目にしたことがあるだろう。

しかし、考えうる表現がすでに出尽くしたと思われるイラストレーションは今後どこへ向かうのだろう。

ひこねのりお
日本のアニメーター、イラストレーターである。東京都生まれ、東京芸術大学美術学部工芸科卒業。東宝映画、東映動画、虫プロダクションを経て1966年にフリーとなり、自身の「ひこねスタジオ」を興す。TVアニメ、TVコマーシャル等のアニメーターとして仕事のほか、キャラクターデザインも数多く手がけ広告などマルチメディアに使用されている。(Wikipedia「ひこねのりお」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
分裂したユーゴスラビア。あの悲劇はどんな理由で始まって、どんなものだったのか。長い取材から著者がユーゴ紛争について語る。

そもそもこの本に至ったのは、サッカー関連の本を読んでいて、セルビア出身のストイコビッチ、そして元日本代表監督で同じくセルビア出身のイビチャ・オシムについて読み、彼らを振り回した戦争とは一体なんだったのか、と興味を抱いたからだ。

信じられるだろうか、かつて一緒に学校に通い、一緒に授業を受けていた友人同士があるときを境に憎み合い殺し合うのである。日本でいうなら埼玉県と東京都の住人が殺し合いを始めるようなものだろうか。

本書を読んでわかるのは、発端は南部と北部の経済の格差だったという。経済の格差が不満を呼び、わずかに生じた疑心暗鬼が衝突を生み、衝突がさらなる民族間での疑心暗鬼を呼ぶのである。この負のスパイラルは、60年代のアメリカ南部の人種差別問題や、ルワンダのフツ族とツチ族の間に起こった出来事など世界中で共通する事で、一度始まってしまったら止めるのは非常に難しいことなのだろう。

ここでここに残って守るべき「祖国」とは、何なのだろうか。われわれ日本人がふだん意識しない、「国家」や「民族」という抽象的な概念が、ここでは「敵」という具体的な形で、目の前に現れて来る。

僕らはどこか気恥ずかしくて「祖国」などという言葉は使わないが、本書を読むと国というものの維持というのは、非常に微妙なバランスの上に成り立っているような気がしてくる。僕らはもっと平和に生きる事のできる日本という国のありがたみを感じるべきなのかもしれない。

ここでECやアメリカは、紛争の初期には「ユーゴ統一維持」の立場からアプローチし、それがうまくいかないとみるや、翌年にはスロベニア、クロアチアばかりか、ボスニアの独立まで承認するという、一貫しない対応をとった。重体の患者(旧ユーゴ)を前に、頭を冷やし、医薬と栄養剤を飲めば治ると言っていた医者(EC)が突然、手足の切断手術をする、と言い出したのに等しい。

この一冊ですべてがわかったなどとはとても言えないが、少しずつあの場所で何が起こっていたのか見えてきたような気がした。

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