2012年6月アーカイブ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
宇宙はいつどのように始まったのか。この永遠の謎とも思えるこの問いに、人類は長い間かけて挑んできた。その奇跡をサイモン・シンが描く。

「フェルマーの最終定理」「暗号解読」で人々の知性が過去繰り広げてきた挑戦をわかりやすく、そして面白く見事に描いてきたサイモン・シン。そんな彼が今回選んだのが宇宙の物語である。

僕らは義務教育ゆえに地球は自転しながら太陽の周りを廻っていることを知っている。夜空の星が信じられないほど遠くにあることを知っている。しかし、人類がそれを常識として認識するまでには、何千年もの時が必要で、時には間違った方向に進んだりしたのである。

コペルニクスやガリレオ、誰でも知っている有名な物語からほとんど知られていないレアな物語まで、人類が地球の大きさ、月の大きさ、太陽の大きさ、夜空に見える星までの距離。最初は永遠に明らかになるはずがないと思われていた謎が、科学の発展と、天体に心を奪われた人々の執念深い観察と突飛な発想によって少しずつ明らかになっていく過程が描かれている。真実が真実として人々の中に定着するのに必要なのは論理的な推論と、観測によって裏付けられた事実だけでなく、政治的な問題や宗教的な問題も多くを占めることがわかるだろう。そのような問題をドラマチックに描いてくれるから本書は面白いのだ。

死は、科学が進歩する大きな要因のひとつなのだ。なぜなら死は、古くて間違った理論を捨てて、新しい正確な理論を取ることをしぶる保守的な科学者たちを片づけてくれるからだ。

前半はどこかで聞いたような古代の人々の物語が中心で、しっかりと理解しながら読み進められるが、後半は次第に理解を超えた話になる点が面白い。僕が初めて宇宙の物語を知ったときから「ビッグバン」というものが常識のように語られていたので、僕が生まれる数年前まで宇宙創生に関して、ビッグバン理論だけでなく、定常宇宙理論も多くの科学者によって支持されていた事実には驚かされた。

ビッグバンは、空間の中で何かが爆発したのではなく、空間が爆発したのである。同様に、ビッグバンは時間の中で何かが爆発したのでなく、時間が爆発したのである。空間と時間はどちらも、ビッグバンの瞬間に作られたのだ。

登場人物の多さで混乱してしまう部分もあるが、人類が長年かけて明らかにした宇宙の仕組みを非常に面白く描いているお勧めの一冊。

クエーサー
非常に離れた距離において極めて明るく輝いているために、光学望遠鏡では内部構造が見えず、恒星のような点光源に見える天体(Wikipedia「クエーサー」

CMB放射(宇宙マイクロ波背景放射)
天球上の全方向からほぼ等方的に観測されるマイクロ波である。そのスペクトルは2.725Kの黒体放射に極めてよく一致している。(Wikipedia「宇宙マイクロ波背景放射」

定常宇宙論
1948年にフレッド・ホイル、トーマス・ゴールド、ヘルマン・ボンディらによって提唱された宇宙論のモデルであり、(宇宙は膨張しているが)無からの物質の創生により、任意の空間の質量(大雑把に言えば宇宙空間に分布する銀河の数)は常に一定に保たれ、宇宙の基本的な構造は時間によって変化する事はない、とするもの。(Wikipedia「定常宇宙論」

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
東京現代美術館のチーフ・キュレーターである著者が現代アートについてわかりやすく語る。

現代アートというと、西洋絵画や日本画と比べるとどうしても「わかりにくい」というイメージがあるが、著者は多くの現代アートを例にとって、それが制作された考え方などをわかりやすく語ってくれるので初心者にとっても非常にわかりやすい。現代アートというと「アートとは何か?」という定義への挑戦、的なイメージを僕は持っているのだが、そんなアートの定義として本書で著者が書いている次の言葉が印象に残った。

アートは、時を越えて生き残る「通時性」と、共有する現在をときめかせる「共時性」の、二つの力をあわせもっている。

いろんなアートやその考え方を説明する過程で出てくる作品やそのアーティストの考え方に魅了されてしまうだろう。「政治性」を持ったアートを説明している章では、「ゲルニカ」や「お腹が痛くなった原発くん」を例に挙げている。

アートを見る目を少し肥えさせてくれる一冊

フランク・ステラ
戦後アメリカの抽象絵画を代表する作家の1人。マサチューセッツ州、ボストン郊外モールデンに生まれ、プリンストン大学で美術史を学ぶ。(Wikipedia「フランク・ステラ」

ドナルド・ジャッド
20世紀のアメリカ合衆国の画家、彫刻家、美術家、美術評論家。当初は画家・版画家であり美術評論でも高い評価を受けたが、次第に立体作品の制作に移った。箱型など純粋な形態の立体作品は多くの美術家や建築家、デザイナーらに影響を与えている。抽象表現主義の情念の混沌とした世界の表現に反対し、その対極をめざすミニマル・アートを代表するアーティストの1人。(Wikipedia「ドナルド・ジャッド」

エルネスト・ネト
ブラジルを代表する現代美術家の一人で、布や香辛料など自然の素材を用いた作品で知られるアーティスト。2001年のヴェネチア・ビエンナーレではブラジル館の代表となるなど、既に世界的な評価は高く、出身地であるリオ・デ・ジャネイロを拠点にしながら、多くの展覧会、プロジェクトに参加している。(はてなキーワード「エルネスト・ネト」

マシュー・バーニー
アメリカの現代美術家。現在はニューヨーク在住。コンテポラリー・アートを代表する作家のひとりとして近年、台頭してきた。

フランシス・アリス
1959年ベルギー、アントワープ生まれ。メキシコシティ在住。社会的危機を抱いた都市空間を舞台にヴィデオや抽象絵画によって世間を挑発し続けるアーティスト。(はてなキーワード「フランシス・アリス」

SANAA
妹島和世(せじまかずよ)と西沢立衛(にしざわりゅうえ)による日本の建築家ユニット。プリツカー賞、日本建築学会賞2度、金獅子賞他多数受賞。(Wikipedia「SANAA」

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1990年、天才心臓外科医天城雪彦(あまぎゆきひこ)が東城医大へ赴任する。新しい天城(あまぎ)の医療スタイルや考え方は東城医大の医師たちに衝撃を与える。

同じく数十年前を扱った「ブラックペアン1988」の3年後の物語。その中では古くからいる医師を追い出す結果となった高階(たかしな)が、今回は天城(あまぎ)の日本医療と相容れない考え方に猛然と反発する。簡単に言えば、天城(あまぎ)は医療を進歩させて医療を維持するためには、お金を缶から受け取る必要があり、医師の数は限られているのだから、多くの金を払える人から治療すべき、というのに大して、高階(たかしな)は医療にカネの話を持ち出すべきではないというのである。

真実は、腕があってもカネがなければ命は救えない。だから医療は独自の経済原則を確立しておかないと、社会の流れが変わった時、干からびてしまう。

著者はもちろん、この作品を社会の流れが変わって、「医療崩壊」という言葉が広まったあとに本作品を書いているのである。つまり、天城(あまぎ)の本作品中で見せる態度は、医療界が本来20年前にやるべきだったこと、として描かれているのだろう。高階(たかしな)と天城(あまぎ)の議論が非常に深みを感じさせるのは、今の状況があるがゆえである。

そして天城(あまぎ)は自らの言葉を実践すべく公開手術へと向かっていく。

「天城先生は、医療現場においては命とお金と、どちらが大切だとお考えですか?」 「カネよりも命のほうが大切だ、という青臭い戯言には同意しますが、カネがなければ命も助けられないという現実から目を逸らすわけにもいきません。

東城医大の物語の歴史をさらに深くする一冊である。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1994年の4月から7月にかけて総計100万人のツチ族が同じルワンダに住むフツ族によって殺された。幸運にもその虐殺のなかで生き残った青年ルラングァがその様子とその後を語る。

ルワンダの虐殺といえば、アウシュビッツなどと並び世界史において「ジェノサイド」という言葉を用いられる数少ない例の一つ。「ルワンダの涙」「ホテル・ルワンダ」などでもそのエピソードは知られている。

本書ではそんな1994年の大虐殺のまさにその「迫りくる死」を描いている。目の前で多くの知り合いが殺され、そして妹や母までもが無残に殺されていくのである。信じ難いのは当時公共のラジオ放送が人々にツチ族を殺すように呼びかけていたことである。

「僕はまだ八歳なんですが、もうツチ族を殺してもいいんですか?」 「かわいらしい質問だね!誰でもやっていいんだよ!」

最初は、生き残ったのはどこかに隠れていて運良く見つからなかったからだろう、と思っていたのだが、実際には、肩を砕かれ、鼻を削ぎ落とされ、左手を失ってその苦しさのあまり「殺してくれ」と叫んでいたから、逆に殺されなかったのである。「殺さないでくれ」と叫んでいたらきっと殺されていただろう。

そして、その虐殺の後についても描かれている。スイスの慈善団体の助けで生き延びた彼は、その後またルワンダに戻って、自らの腕を切り落とした男と再会するのである。自らを生死のふちに追い込み、親や妹達を殺した殺人鬼が普通に日常を送っていることに耐えられないルラングァ。終盤はその心のうちを描いている。読んでいて感じるのは、僕とほとんど変わらない年齢にも関わらず人生の苦難の多くを経験してしまった彼の荒んだ心のうちである。

全体的に文章から強い怒りを感じ、冷静に分析されて描かれた内容とはいえないが、その狂気の様子を知るひとつの手がかりにはなるだろう。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
リッツ・カールトン大阪の開業に携わり、開業後は副総支配人としてその運営に関わった著者がそのホスピタリティについて語る。

実際僕自身リッツ・カールトンは足を踏み入れたこともないのだが、「クレド」というものについて語るとき必ず挙がるのがリッツ・カールトンであり、その徹底されたサービスはよく知られているところである。

しかし、世の中に多くのサービスがあって、そのどれもが顧客目線でサービスの質を向上しようとしているにも関わらず、そんな中でもリッツ・カールトンが際立って高い評価を受ける理由はなんなのか。そんな疑問に本書はわずかではあるが答えてくれることだろう。

なかにはもちろん高いお金をかけるからこそ実現するものもあるが、いくつかは異なる業種にも適用できるようなものであり、それだけでなく、単純に人と人とのコミュニケーションの際にも利用できそうな考え方まで示されている。

以前読んだ、オリエンタルワールドのサービスについて書かれた本の内容と類似点がある印象を受けた。どちらもあらゆる過程で根本となるポリシーをもとに判断を下しているのである。こんなことが実現できるならぜひそんな会社で働いてみたい、と思わせる一冊である。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
高校生T.J.とその家庭教師のAnnaがモルジブに向かう途中、航空機が墜落し、やがて2人は小さな島に流れ着く。

過去いくつもの物語が作られている、無人島漂流記という題材。本作品は先生と生徒という男女でその物語が展開していく。飲み水の確保や、火をおこすことに悪戦苦闘する姿は比較的予想されているもの。その土地特有の病気もまたその一つであって、男女であればやがて恋愛関係になるのも予想通りかもしれない。

本作品で予想外のことと言えば、過去、無人島漂流記という物語は島から脱出して物語を終えるのにもかかわらず、本作品ではその後の2人の様子も描かれている点だろう。島での生活と、都会の最先端の文化での生活のギャップや、飛行機事故の生存者として有名になってしまったが故の2人の苦悩するさまなどが新しい。

すべてがフィクションではなくて、9.11やスマトラ沖地震を物語に絡めている点も面白い。

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