2012年3月アーカイブ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
日本代表阿部勇樹について、幼少時代のことクラブでのこと、日本代表でのことなどを、阿部勇樹本人や、家族、そしてオシム監督が語る。

タイトルにあるように、本作品は阿部勇樹の涙もろさをテーマとして構成されており、実際に本書を読んだ印象は、サッカー選手としては本当に阿部勇樹は繊細であるということ。それでもそんな彼が日本代表まで上り詰めることができる日本のサッカー界はなかなか悪くないのだろう。

阿部勇樹本人が語る章では、ジェフ時代に出会ったオシム監督とのことについて非常に多くページが割かれていて、阿部がオシム監督から受けた影響の大きさが見て取れる。

後半には父や妻の視点で阿部勇樹が語られ、どれも等身大の阿部勇樹を見せてくれる。

一方で、日本代表にクラブチームなどにおける試合などにはほとんど触れていないため、むしろサッカーファン向けの内容とは言えないのかも知れない。

【楽天ブックス】「泣いた日」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
アメリカ人の自転車選手ランス・アームストロングの半生。自転車選手として頭角を現す過程と、睾丸癌により死の淵に立たされてから再び復活するまでを描く。

「マイヨ・ジョーヌ」とは、世界最高峰自転車レース、ツールドフランスでトップの選手が着ることを義務づけられたウェアのこと。とはいえ本書は自転車選手の生涯というよりも、著者自身が強調しているように癌という病気から復活した一人の人間の物語と言う側面が強い。

本書のなかでは病気に限らず、自転車レースがメジャーではないアメリカという国で育った故に、ランスが直面することになった困難が描かれている。その困難を克服する彼の信念は培ったのは、その周囲の人々によるところが大きい。特に、ランスの母が彼に接する様子は非常に印象的である。女手一つで息子を育てながら、常にランスの考えを支持し、決して彼のやることを否定せず、常に挑戦することを求め続けたのである。

母はただ、誠実に努力すれば物事は変わり、愛は救いをもたらす、ということを知っていただけだ。「障害をチャンスに変えなさい。マイナスをプラスにするのよ」と言うとき、母はいつも自分のことを言っていたのだ。僕を産むという決心をしたこと、そして僕を育てたそのことを。

そして、睾丸癌の告知。生死の縁に立たされたことのある多くの人同様、それまでやや傲慢だったランスの考えが次第にではあるが大きく変わっていくのがわかる。

恐怖とはどういうものか、僕は知っていると思っていた。自分が癌だと聞かされる前は。本物の恐怖、それはまぎれもない、まるで体中の血が逆流するような感覚とともにやってきた。
どうして自分が?どうして他の人ではなく自分が?でも僕は、化学療法センターで僕の隣に座っている人より、価値があるわけでもなんでもないのだ。

そして終盤は妻、キークとの出会いと、失意の日々から抜け出してツールドフランスで優勝するまでが描かれている。キークもランスの母と同様、非常に洗練されて思慮深い女性として描かれていて、母とキークだけでなく、ランスが多くの理解者にめぐまれていたということが全体を通じての印象である。

著者ランス自身が、その闘病生活を振り返って、「それまで言われた言葉のなかでもっともすばらしい言葉」として看護婦がランスに言った言葉がある。

いつかここでのことは、あなたの想像の産物だったと思える日が来るように祈っているわ。もう私は、あなたの残りの人生には存在しないの。ここを去ったら、二度とあなたに会うことはないよう願っているわ。そして、こう思ってほしいのよ。『インディアナの看護婦って誰だっけ?あれは夢の中だったのかな』

「明日死ぬとしたら」という問いは、生きている時間の大切さを考える上でよく投げかけられるものではあるが、なかなかそういう風に生きられるものではない。人は怠けるし、現状に甘んじてやるべきことを、いつでもできること、と思ってしまう。本書で描かれているランスの人生はまさに、そんな怠けた心に活を入れてくる。僕はやるべきことをやっているか。やりたいことをやっているか、と。たまたま自転車レースについて調べて本書を知ったが、読み終えて思うのは、本書はもっと多くの人に知られて、もっと多くの人に読まれるべき価値のある本だということ。

【楽天ブックス】「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
神山高校の古典部を描いた物語の第4弾。

本作品は前3作と違って、短編集となっている。古典部の4人、省エネがモットーの折木奉太郎(おれきほうたろう)、物事は広く浅く取り組む福部里志(ふくべさとし)、そして地元の名士の娘、千反田(ちだんだ)える、そして福部に想いを寄せる伊原麻耶香(いはらまやか)。

例によってあまり重要でもない日常の謎に挑み続ける4人。他愛のないことだけどどこか深みを感じさせるエピソード。印象的だったのは、6話目の「手作りチョコーレート事件」。福部里志(ふくべさとし)に想いを寄せる伊原麻耶香(いはらまやか)は毎年バレンタインデーには、福部(ふくべ)にチョコレートを渡そうとするのだが、彼はどうにかして受け取ることを回避しようとする。そこには福部(ふくべ)なりの深い理由があった...。

軽い物語の寄せ集めではあるが、だからといって読み終えた瞬間に記憶から消えてしまうようなものではなく、むしろ何か心の中に漂い続ける深みがある。悪くない一冊。

【楽天ブックス】「遠まわりする雛」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
店主篠川栞子(しのかわしおりこ)が退院して戻ってきた北鎌倉のビブリア古書堂。そんな古本屋で起きる古本にかかわる物語。

第2弾となる本作品は、前作と違って店主栞子(しおりこ)が戻ってきてビブリア古書堂にいる点だろう。それでも本の事以外を話すのは苦手なため、接客を基本的にアルバイトの五浦大輔(ごうらだいすけ)に任せることとなる。

全体的には未だに何を考えているかわからない栞子(しおりこ)と高校時代から栞子(しおりこ)に想いを寄せる大輔(だいすけ)の不器用な恋愛物語といった雰囲気になってくる。

もちろん、そんななかでも古本に関する興味深いエピソードはちりばめられている。アントニイ・バージェスの「時計じかけのオレンジ」や足塚不二雄の「UTOPIA」などがそれである。

大輔(だいすけ)の昔の恋人が現れたり、栞子(しおりこ)の母親のエピソードがあったりと、少しずつ2人の背景が明らかになっていく。例によって、のんびり気楽な読書に最適な一冊。

【楽天ブックス】「ビブリア古書堂の事件手帖2 栞子さんと謎めく日常」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
救急隊員、女性刑事、消防士といった特殊な職業に就いている人を描いた4つの物語。

4つの物語を収めているにもかかわらず薄いため、あまり期待していなかったのだが、どの物語も非常に深く、結末は予想をいいほうに裏切ってくれる。2番目の表題作「傍聞き」で日本推理作家協会賞短編部門受賞したということだが、個人的に印象的だったのは最初の物語である「迷走」である。

ナイフで刺された怪我人を搬送中の救急車だが、病院の近くにたどり着きながらも怪我人を下ろすことなく、病院の周囲をサイレンを鳴らし続けながら走る。その怪我人と面識のある救急隊長の意図は、怪我人を救うことなのかそれとも...。

残りの3つの物語も短いながらもそれぞれの登場人物の個性がしっかりと出た物語となっている。この手軽さでこの深さ。読む価値ありといえる。

【楽天ブックス】「傍聞き」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
ロシアに精通した公安捜査官倉島(くらしま)の物語の第3弾。都内で発生した殺人事件の捜査に加わるように倉島(くらしま)は理由も告げられずに指示される。

「曙光の街」「白夜街道」に続く第3弾である。前2作品は元KGB諜報員ヴィクトルと倉島(くらしま)の双方に焦点をあてた物語だったが、本作品では残念ながらヴィクトルは名前として出てくるだけで姿を現さない。そのためシリーズのなかではかなり地味な展開になっている。

さて、都内で発生した殺人事件で、明らかにプロの仕業と思われる遺体を目の当たりにし、倉島(くらしま)はそのロシア絡みの情報網から一人のロシア人、アンドレイ・シロコフという名前にたどり着く。いったいその男は何を企んでいるのか、なんのために被害者たちを殺したのか。その真相を突き止めるため、倉島(くらしま)はロシア人やその関係者たちから情報を得ようとする。しかしそれは、一歩間違えればこちらの動きを相手に教えて、自らも命を狙われかねない行動。常に危険な駆け引きの連続である。ある人間について調べるためにその人間の名前をネットで検索するだけで、追跡者として特定され命の危険にさらされる。そんな様子はなんでもかんでもまずインターネットで調べようとする人にとっては衝撃かもしれない。

さて、真実が明らかになるにつれてそれは第二次世界大戦中の出来事へとつながっていく。公安捜査官の活動は近年いろいろな刑事ドラマに取り上げられるせいか、一般の人にもある程度知られるようになっては来ているが、それでも平和な日本を満喫している僕らにはとても現実感わかない世界である。本作品はスピード感や読者を一気に引き込む力があるわけではないが、そんな公安捜査官たちが、僕らの視界に入る前のところで平和を守ろうと奔走する姿が伝わってくる。

【楽天ブックス】「凍土の密約」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
17世紀に数学者フェルマーが残した定理。その余白には「証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」とあった。以後、3世紀に渡って世界の数学の天才たちの挑戦を退けてきたこの定理がついに1994年アンドリュー・ワイルズによって証明されることとなった。

数学が好きな人間なら誰でも聞いたことがあるだろう。「フェルマーの最終定理」をここまで有名にしているその理由の一つがそのわかりやすさである。数学の素人でさえもその定理が言っていることの意味はわかるゆえに誰もが証明したくなるのだが、それを証明することも判例をみつけることもできない。

本書は数学における「証明」というものの意味、そして数学者の性質から非常にわかりやすく、そして面白く説明している。タイトルを聞いただけで数学嫌いな人は敬遠してしまうのかもしれないが、本書は本当にすべてをやさしく書いている。

さて、そして物語は徐々にそのフェルマーの最終定理の核心へと繋がっていく。驚いたのは、その証明にあたって、日本人の数学者志村五郎(しむらごろう)と谷山豊(たにやまゆたか)によって考え出された谷山=志村予想が大きな鍵となったことである。

過去、多くの人がその証明に挑戦し敗れるなかで編み出されたいくつもの数学的証明手法をいくつも見ることで、フェルマーの最終定理は決してただ一人の数学者によって証明されたわけではなく、アンドリュー・ワイルズを含む多くの数学者による努力の積み重ねによって成し遂げられたとわかるだろう。

そんな数学者たちの300年の汗と涙がしっかり感じられるから、アンドリュー・ワイルズの証明の瞬間には鳥肌が立ってしまった。

そろそろお茶の時間だったので、私は下に降りていきました。私は彼女に言いました------フェルマーの最終定理を解いたよ、と

現代に生きる人は思ったことがあるだろう。科学が発展し地上のすべてがすでに切り開かれ、未知なる物など地球上にはなく、なんて退屈な世の中なのだろう...と。しかし、本書は見せてくれる。数学の世界にはまだまだ未知なる世界があふれている、と。

わからない言葉もいくつかあったが、数学という世界の魅力を存分に伝える一冊である。

【楽天ブックス】「フェルマーの最終定理」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
人とは違った考え方を常にする浅倉綾奈(あさくらあやな)はそれゆえに社会に適応できずにいた。その才能に目をつけた警察キャリア壱条那沖(いちじょうなおき)は、綾奈(あやな)に社会に適応させるべく特別な授業を受けさせることを決める。

松岡圭祐ワールドの新たなヒロインの第一作であるが、本作品には万能鑑定士シリーズの凛田莉子(りんだりこ)もかなり頻繁に登場する。物に対する知識を極限まで蓄えた凛田莉子(りんだりこ)と、物事を人とは別の視点から眺めることに長けた浅倉綾奈(あさくらあやな)が悪事をたくらむ輩と対決する物語である。

第一作ということで、浅倉綾奈(あさくらあやな)の成長の姿が非常に面白い。個人的に印象的だったのは綾奈(あやな)の教育担当である年配の元教師能登(のと)のその考え方である。

ゲームはインベーダーかせいぜいゼビウスまで、最近のものはついていけないと語る中高年は、それゆえ信頼できる存在ですか?AKBのメンバーの顔の区別がつかないとか名前を知らないというのが自慢になりますか?いずれも大きな勘違いといえましょう。いつの世も、どのような分野であれ知識の幅は広ければ広いほどよいのです。

年配はゲームをしないとかマンガを読まないとか、一体誰が決めたのだろう。いつまでも新しい物事に目を向けて生きていたいと思える言葉である。

そして終盤に向かうにつれ立派な一人前の添乗員になっていく綾奈(あやな)。さて、壱条(いちじょう)との恋模様はどうなるのか、家族とはうまくやっていけるのか。続編が楽しみである。

【楽天ブックス】「特等添乗員αの難事件I」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
2人の子供に恵まれた普通の幸せな結婚を楽しんでいたJohn Meronはある日、旧友からの久しぶりの電話を受けて以降、追われる身となる。真実が見えないまま家族を守るためにMeronは奔走する。

ジェットコースター小説というものがあるならまさにそれ。物語の大部分でMeronは逃走、銃撃戦、誘拐、拉致と言ったスリリングな内容で占められている。ハリウッド映画を見ているようなスピーディな展開で栄が向きな物語と言えるだろう。

逃走劇の渦中にいるMeronとその妻Kathyだけでなく、過去につらい出来事ゆえに犯罪捜査に対して違った思いを抱き続けるBoltの心の内なども印象的である。

そして次第に明らかになる大きな犯罪の影。結末に関してやや説明不足の部分もあるような気がするが、一気に読める内容である。また物語の舞台がイギリスという点も面白い。

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