2011年9月アーカイブ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
社会・経済学者である著者は、世界で発生するテロの原因として、「ユース・バルジ」というものに着目した。

「ユース・バルジ」とは「過剰なまでに多い若者世代」と言い換えることもできる。僕らが扮装や戦争の原因としてあげるとしたら何だろう。おそらく「宗教問題」や「貧困」を挙げるのではないだろうか。しかし、上でも書いたように、本書の著者の視点はやや異なる。若い男性の比率が多くなりすぎると彼らは自らの有り余ったエネルギーの矛先を求めそれがやがて内戦や虐殺につながるのだという。

ある意味「貧困」などより非常に納得のできる考え方である。著者はその「ユース・バルジ」がいかに過去紛争や内戦に影響を与え、また今後どのようなことに警戒しなければならないかを語る。面白いのは例えば、出生率が1の先進国と出生率が6のイスラムの国が戦争をした場合の話。イスラムの国の戦死者は多くの場合、その家族の次男や三男であるのに対して、先進国の場合その家族の長男である場合が多い。そうなると当然一家の大黒柱を失った親によって、先進国では戦争に対する反発も高まる、というもの。

今までこんな視点で考えたことがなかっただけに新鮮であった。残念ながらそんな今後も続く第三世界の「ユース・バルジ」に対してどのように対応すべきか、というようなことは書かれていない。残念ながら将来を悲観しているだけである。個人的には、そんな若者がエネルギーを平和的に消費する手段として「スポーツ」という答えもあるような気がするが、本書はそのようなことには触れていない。それでも全体的に非常に面白いと思える考え方だった。

残念なのは翻訳があまりにも酷いということ。関係代名詞を無理やり訳したのか4行にもわたる文章が頻出し、3,4回読み直さないと意味の取れない文章が多々あり、非常に読みにくい。英語が読める人には迷うことなく原書で読むことをお勧めする。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
聖書の内容を知っていれば西洋絵画はもっと楽しめるはず。そういう考えでよく絵画に扱われるエピソードや、有名な絵画を例にとって解説している。

旧約聖書を中心に解説し、それぞれのエピソードで有名な絵、そしてその絵の登場人物の判断の仕方を解説している。当たり前のことであるが、各々のエピソードに登場する人物に対して、それぞれの画家の持つ印象は異なる。それゆえにその人物はそれを描く画家によって風貌が異なる。そういったなかで、どうやってその人物をそれと判断するか、と考えたときに、「アットリビュート」という物の存在が重要になる。

「アットリビュート」とは「○○を持っているのは○○だ」という考え方である。必ずしもそれは物ではなく時にはその風貌。例えば年老いているはず、とか若いはず。という要素として現れてくる。驚いたのは、絵画のなかに善と悪が存在する場合、右に位置するものが正しいということ。それゆえに「右(right)」=「正しい(right)」なんだそうだ。

本書で初めて知った印象的な画家は、アンドレア・マンティーニャ。ぜひ今後もしっかりとチェックしたい。

いずれにしても聖書の物語をしっかりと把握しておかないと理解しにくいものばかりで、まだまだ学ぶことは一杯あり先は長い、と感じさせてくれる一冊であった。

ユダはキリストが大好きだった。しかし、その何倍もキリストが妬ましかったのだろう。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
伝統の文化祭。手違いで作りすぎた文集を売るために古典部の4人は思考錯誤する。その一方で学内で起きている連続盗難事件。そんな文化祭の3日間を描く。

古典部の物語の第3弾である。例によって物語の舞台も、そこで発生する問題も、登場人物たちの悩みも、読んでいるものの気持ちを落ち込ませるほどのものではない、という気楽な物語。お馴染みの古典部の4人を中心に物語は進む。省エネがポリシーの折木奉太郎(おれきほうたろう)、お嬢様の千反田える。漫研と古典部を掛け持ちする伊原麻耶花(いはらまやか)。楽しいことにはなんでも首をつっこみたがる里志(さとし)である。前2作と異なるのは、本作品は4人に等しく視点が移り、今まであまりその心情が表現されていなかった麻耶花(まやか)や里志(さとし)の人間性がしっかり描かれている点だろう。

特に麻耶花(まやか)が、彼女の所属するもうひとつの部活、漫画研究会において、その性格ゆえに意見の異なる女生徒と衝突するのは、比較的印象的に残るシーンである。

さて、米澤穂信作品といえば、つねに「ミステリー」について考えさえる要素を備えていて、本作品でもそういった部分がある。文化祭中に発生した盗難事件が50音順に部活をターゲットに進んでいるということで、奉太郎(ほうたろう)、里志(さとし)はアガサクリスティの「ABC殺人事件」を重要なヒントとしてあげるのだ。もちろんその本を読んでなくても本作品を楽しむのに問題ないと思うが、アガサクリスティの名作ぐらいは目を通しておくべきなのかも、と思わされてしまう。

のんびり読める1冊。古典部の前2作より完成度が高い印象を受けた。

ホイール・オブ・フォーチュン
タロットの大アルカナに属するカードの1枚。カード番号は「10」。(Wikipedia「運命の輪」

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第31回吉川英治文学新人賞受賞作品。第7回本屋大賞受賞作品。

江戸時代、碁打ちである渋川春海(しぶかははるみ)はその一方で数学や星にも興味を持って精進する。そんな多方面に精進するその姿勢ゆえにやがて、国を揺るがす大きな事業に関わることになる。

物語は指導碁をしていた折に、老中酒井に「北極星を見て参れ」と命を受けて、春海(はるみ)の人生は動き出す。その北極出地の最中に聞いたこんな言葉が、その後春海(はるみ)の人生に大きく関わることになる。

お主、本日が実は明後日である。と聞いて、どう思う?

実はこのくだりを読む瞬間に初めて、いままで暦の歴史というものを考えたことがなかったことに気づいた。現在使われている暦が、グレゴリウ暦と呼ばれることや、閏年の適用方法などは知っているが、ではそれが過去どのような経緯を経て世界共通の正しい暦として浸透したかは考えたことがなかったのである。それでも、今持っている知識。たとえば、一日の長さや、地球の楕円形の公転軌道から、それが非常に複雑な計算と、何年物太陽の観察なしには成し遂げられないものだということはわかる。

ある意味「掴み」としては十分である。僕のような理系人間はそのまま一気に物語に持っていかれてしまうことだろう。

物語は渋川春海(しぶかわはるみ)がその生涯に成し遂げた多くのことを非常に読みやすく面白く描いているが、そこで強調されるのは、春海(はるみ)の探究心や好奇心といった物事に対する姿勢だけでなく、春海(はるみ)の物事の達成をするのに欠かせなかった、多くの人々との出会いである。

水戸光国、関孝和、本因坊道策、保科正之、酒井忠清。いずれもどこかで聞いたことあるような名前ではあるが、正直、本作品を読むまでほとんど知らない存在だった。彼らの助けがあってこと、借りて春海(はるみ)が偉大なことを成し遂げたということで、それぞれの当時の立場や実績などにも非常に興味をかきたてられた。

「明察」という言葉は僕らにとって馴染みのある言葉ではない。本作品中でその言葉が使われるのは、数学者同士が問題を出し合い、自分の出した問題に対して、正答という意味で「明察」という言葉が使われている。

そして、本書のタイトルの「天地明察」とは。それは、天と地の動きを明確に察するという意味。現代においてでさえそれはもはや神の領域のような響きさえ感じるその偉業。当時それはどれほど困難なことだったのだろうか。また、世の中を変えるような偉業に一生かけて挑み続ける生涯のなんと充実していることだろう。情熱と充実感、人生の意味などについて考えさせる爽快な読み心地の一冊。


授時暦
中国暦の一つで、元の郭守敬・王恂・許衡らによって編纂された太陰太陽暦の暦法。名称は『書経』尭典の「暦象日月星辰、授時人事」に由来する。(Wikipedia「授時暦」


大統暦
中国暦の一つで、元の郭守敬・王恂・許衡らによって編纂された太陰太陽暦の暦法。(Wikipedia「大統歴」

渋川春海
江戸時代前期の天文暦学者、囲碁棋士、神道家。(Wikipedia「渋川春海」

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
社長である日向貞則(ひなたさだのり)は、医師に余命6ヶ月と診断されたことによって、一つの計画を実行することにする。それは、自分に恨みを持つ社員梶間(かじま)に自分を殺させることだ。そして実行のために、その人物とカムフラージュのために何人かの幹部候補社員たちを熱海の保養所に集める。

なによりもその設定自体が面白いだろう。「誰かに自分を殺させる。」こんな設定はそうそうあるものではない。ひょっとしたらそんなあり得ない設定に抵抗を抱く人もいるかもしれないが、すでに何冊か石持浅海作品を読んでいる僕にとっては、これから展開される物語に対して期待感が高まるのを感じた。

本作品も石持浅海らしく保養所という狭い空間のなかで進んでいく。そこに集められた5人の幹部候補社員と、社長である日向(ひなた)。補佐役の専務。そして、その場をコントロールするために日向(ひなた)に招かれた3人である。その3人のうちの一人が、碓氷優佳(うすいゆか)なのである。読んだことある読者ならすぐに気づくことだろう。この物語は石持浅海の別の作品「扉は閉ざされたまま」と同じ世界で、その数年後を描いているのだ。そして「扉は閉ざされたまま」でも碓氷優佳(うすいゆか)が重要な役を演じた。

さて、二泊三日の研修という雰囲気でイベントは進みながらも、2人の駆け引きが進む。どうやって日向(ひなた)を合宿中に殺してなおかつ自分は警察に捕まらないように、と考える梶間(かじま)。そして、どうやって梶間(かじま)に「復讐を果たした」と思わせながら、自分を殺させて、そのうえで警察に捕まることなく会社を継いでもらおうかと考える日向(ひなた)。

とはいえ、「扉は閉ざされたまま」を読んだことのある人間には最後の展開が予想がついてしまうことだろうう。最終的に碓氷優佳(うすいゆか)がすべてを解決してしまうのだろう、と。それを知ったうえでなお先が楽しみなのは、2人の意図をどうやって碓氷優佳(うすいゆか)が上回って解決するかというその爽快感への期待ゆえなのだ。結果が見えているのにここまで楽しいのは、必ず事件が解決されるとわかっている探偵物語と似ているかもしれない。

そしてその期待は最後まで裏切られることはない。正直学ぶもののない物語のための物語と切って捨てることはできる、そんな人によって好みの分かれる作品ではあるが、それを補うだけの魅力を感じるのは、単に僕の好みが知的な女性、という理由のせいだけではきっとない。

過去の石持作品の雰囲気が好きで、それを再度味わいたくて本書を手に取った人には決して後悔させない一冊。個人的には先に「扉は閉ざされたまま」を読んでから挑戦して欲しいもの

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
骨髄白血病を患うKateを救うために遺伝子操作をして生まれたAnna。両親は、Annaは輸血や骨髄移植などを繰り返させてKateの命を永らえさせる。しかしある日、Annaは自分の意思で自分の行動を決める権利があるはず。と、両親に対して訴訟を起こすことを決意する。

なんという重いテーマなんだろう。言ってしまえば「命の比較」である。1つの命を生きながらえさせるために、1人の健康な人間に痛みや不自由を強いることが正しいのか。本作品で扱われているのは、そんな軽く恐れを抱くほど重いテーマである。前半部分は回想シーンを繰り返しながら、Kateが白血病と診断されて、Annaを生む決意をする両親のSaraとBryan。そして、KateとAnnaの兄Jessiの生活など、常に死と隣り合わせの人間が家族のなかにいるがゆえに、普通の生活とはかけ離れた日常を送らざるを得ない家族の生活が描かれる。

本作品の注目すべきなのはその重いテーマだけでなく、そのテーマをより現実的に見せる、さまざまな描写である。例えば病院に検査や手術に向かうたびに自分の部屋を過剰なまでにきれいにするKateや、自分の言う事をKateの言う事ほどしっかりと聞いてもらえないと感じる兄Jessiなどがそれである。

そして後半は舞台を法廷に移す。証人として証言するそれぞれの心のうち。特に父親であるBryanの証言は涙を誘う。。

だったら誰か正しい答えを教えてくれないか。どうすれば正しい答えにたどり着けるかわからないんだ。何が正しくて何が公平かはわかる。でもどちらもこの場合は当てはまらない。もっといい解決策があるに違いないとも思っている。でも、思い続けて13年経ってしまった。まだ答えが見つからない。


最後まで証言することを拒むAnna。そして訴訟を起こしたAnnaの本当の意図は最後まで明らかにならない。訴訟を通じて次第に心を通わせあう弁護士のCampbellとAnna。Campbellの連れている犬の名前がJugdeという点が個人的にはヒットである。

今まで立ち上がって話しても、なんにもならなかったのだろう。でも今回は、君が話せばみんなが耳を傾けるだろう。


僕ら日本人からすればAnnaの生まれる過程。つまり遺伝子操作による出産という部分にも興味を持ってしまうのだが、残念ながらその点には本作品は触れていない。このへんがアメリカと日本の文化の違いだろうか。

なんにしても後半は涙を誘うシーン満載である。

portacath
皮膚に埋め込まれる小さな医療機器。

Laundromat
セルフサービス式コインランドリー

Energizer
アメリカ合衆国のコンシューマー製品メーカ?。ミズーリ州セントルイスを拠点とする。その製品には電池を含み、約25%のシェアを持つ。(Wikipedia「エナジャイザー」

AWOL(absence without leave)
無許可{む きょか}の離隊、無断{むだん}欠勤{けっきん}[外出{がいしゅつ}]、職務離脱{しょくむ りだつ}、帰営遅刻。

EMT(Emergency Medical Technician)
救急救命士

エミュー
平胸類(ダチョウ目)の鳥の一種。オーストラリア全域の草原や砂地などの拓けた土地に分布している。周辺海域の島嶼部にも同種ないし近縁種が生息していたが、現生種の1種のみを除いて絶滅したとみられている。オーストラリアの国鳥。(Wikipedia「エミュー」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
幻覚や幽霊のような不可思議な出来事に絡めた5編の物語を収録した短編集。

短編集ということで、それぞれの物語は短く、とてもお腹いっぱいになる、というようなものではないが、ところどころに宮部みゆきらしさのようなものが感じられる。どこにでもありそうな物語のなかに不思議な出来事を盛り込んでいるため、宮部みゆきが超能力者を扱っていたような、そんな不思議な期待感を感じさせる。

何かを大切にした思い出。 何かを大好きになった思い出。 人は、それに守られて生きるのだ。それがなければ、悲しいぐらい簡単に、悪いものにくっつかれてしまうのだ。

個人的には4つめの物語「いしまくら」が好きだ。父と娘で、公園で殺された女性について調べる物語。その事件を発端として広まった、幽霊が出るといううわさ話。それは世の中の人々の不安と出来事を端的に説明しているようにも感じられる。

なにかの出来事に対して、誰かが行う動機付け。原因と状況をみて、「きっと彼女はこう感じたんだろう」。宮部みゆきの行う動機付けは僕らが思う、さらに一歩上をいく。

わずかであるが久しぶりにそんな空気に触れさせてもらった。しかし、やはり宮部みゆきにはこの世界観で長編を書いてほしい。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
埼玉の秩父で起こった連続猟奇殺人事件。犯人の目的は何なのか。被害者に繋がりはあるのか。

最近書店で平積みになっている本作品。物語は秩父にある一つの「ラザロ」というスナックを中心に進む。埼玉の奥地にあるスナックに集まってきた人々。若い大学生もいれば、熟年のカメラマンやピアニストもいる。みんなそれぞれ過去を明らかにしないまま、週に何度かそのスナックに集い、顔と名前だけは知っている関係になる。そんななかで周囲でおこった殺人事件。物語は必ずしも事件解決に勤める刑事たちに集中する訳でもなく、また、そのスナックに集まった人たちは必ずしもそんな殺人事件に明確な恐怖をいだくわけでもなく、そのまま疲れた日々を送り続ける。

猟奇殺人事件という本来スリリングな展開になるであろう題材でありながら、田舎町のゆっくりとした時間の経ち方を感じさせる。ハリウッド映画というよりもフランス映画。そういった意味では個性を感じさせる作品。読者は途中になって考えるだろう。そもそもタイトルとなっている「ピース」の意味とは?と。

個人的にはむしろ秩父という土地に非常に興味を抱いてしまった。機会があればのんびり訪れてそのゆっくりした時間の経過を楽しみたいものである。

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