2011年3月アーカイブ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第12回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作品。

冷凍コンテナのなかで集団自殺した14人の男女。女性刑事クロハは事件の深部へと迫っていく。

女性刑事を主人公にした小説は決して少なくない。そして、そのどれもが小説という容姿を見せない媒体ゆえに、読者の頭のなかで魅力的な女性へと変わるから、強く賢く美しい女性が生まれるのだ。そんな競争率の激しい枠に本作品も挑んでいるのだが、本作品の女性刑事クロハも決してほかの作品のヒロインに負けてはいない。

クロハは捜査の第一線で働きたいがゆえに、自動車警邏隊から機動捜査隊の一員となる。事件の捜査に明け暮れるクロハの息抜きは、仮想現実の世界である。その世界は、SecondLifeと印象が重なるように思う。一般的にはいまだ抵抗があるであろう仮想現実の世界を、犯人側だけでなく、刑事である主人公の側も日常の一部として描いている点に、本作品の斬新さを感じる。

また、クロハがたまに会う精神科医の姉の存在も面白い。姉が犯人像について語る言葉はどれも印象的である。

集団に参加するのは、死ぬことの責任感を自分に植えつけて、逃げられないようにするため。

そして、次第にクロハは犯人に近づいていく。読みやすく読者を引き込むスピード感。そんな中でも見えない犯人に対する不気味さが広がってくる。非常に完成度の高い作品である。

気になるのは本作品に続編があるのか、というところ。クロハの存在が本作品だけで終わってしまうのであれば非常にもったいない気がする。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
アップル製品に興味のある人や、IT業界の動向に関心のある人は誰でも一度は彼のプレゼンを見たことがあるのではないだろうか。本書は、スティーブ・ジョブズのその魅力的なプレゼンテーションを分析し、聴衆を魅了するテクニックの数々を明らかにしていく。

僕自身はプレゼンなどほとんど縁のない仕事をしているが、それでも興味を持って読むことができた。魅力的なプレゼンをするための手法として印象的で僕らが陥りがちな手法は本書でたくさん触れられているが、パワーポイントの箇条書きの部分が一番耳が痛い。同じように感じる人は多いはずだ。

パワーポイントも上手に使えばプレゼンテーションをひきたてることができる。パワーポイントを捨てろというわけではない。用意されている箇条書き「だらけ」のテンプレートを捨てろと言うのだ。

そのほかにも「3点ルール」や「敵役の導入」「数字のドレスアップ」などは面白く読ませてもらった。

普通なら市場シェア5%は少ないと思うだろうが、ジョブズは別の見方を提示した。 「アップルの市場シェアは自動車業界におけるBMWやメルセデスよりも大きい。だからといって、BMWやメルセデスが消える運命にあると思う人はいないし、シェアが小さくて不利だと思う人もいない。

読めば誰もがプレゼンをしたくなるだろう。必ずしも大勢の人の前でのプレゼンだけでなく、コミュニケーションの根本にあるあり方について考えさせられる内容である。

スティーブ・バルマー
アメリカ合衆国の実業家、マイクロソフト社最高経営責任者(2000年1月 - )。(Wikipedia「スティーブ・バルマー」)

ジャック・ウェルチ
アメリカ合衆国の実業家。1981年から2001年にかけて、ゼネラル・エレクトリック社の最高経営責任者を務め、そこでの経営手腕から「伝説の経営者」と呼ばれた。(Wikipedia「ジャック・ウェルチ」)

YouTube「Steve Jobs' 2005 Stanford Commencement Address」
YouTube「iPhone を発表するスティーブ・ジョブス(日本語字幕)」
YouTube「スティーブジョブズによるiPodプレゼン(2001)」
YouTube「MacBook Air 」
YouTube「The Lost 1984 Video: young Steve Jobs introduces the Macintosh」
YouTube「The First iMac Introduction」

【楽天ブックス】「スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン 人々を惹きつける18の法則」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
北海道極北市民病院に赴任した今中(いまなか)は、問題山積みの病院の現状を目にして改善しようと努める。

本作品の舞台となっているのは財政破綻の極北市という仮想の自治体。しかしそれは、北海道夕張市をモデルにしていることがあとがきで触れられている。

本作品も著者のほかの作品同様、わかりにくく無駄に長い委員会名や肩書き名などとともにスロースタートし、今中(いまなか)の目を通して、赤字病院の体質やその原因を示してくれる。

また、昨今の医療を話題にした内容の本の中ではすでに当然のように語られることではあるが、本作品でも命を救えなかった産婦人科医師に対する、世間の度を越した非難についての医師目線の意見が語られている。

最後まで、医療問題に関心のある人には興味を惹く内容が多く含まれており、世間が医療に対する考え方を変えなければならない、と再認識させてくれる内容である。

戦後、産科技術の向上により、妊婦死亡率は劇的に下がっている。しかし産科医はそのことを社会に向かってアピールせず、黙々と働き続けた。その結果お産は絶対安全だという幻想を市民が抱いた。

さて、そんな一方で、シリーズではお馴染みの姫宮(ひめみや)や世良(せら)の登場など、もはや海堂作品は、初めて読む人は、海堂作品を読み続けている人の半分も物語を楽しめないのではないか、というような気がしてしまった。

財政再建団体
地方財政再建促進特別措置法(再建法)に基づき、赤字額が標準財政規模の5%(都道府県)または20%(市区町村)を超えた破綻状態にあり、総務大臣に申請して指定を受けた地方自治体のことをいう。2009年4月1日以降は財政再生団体。(Wikipedia「財政再建団体」

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
農薬も肥料も使わずにりんごを実らせることを実現したりんご農家、木村明則(きむらあきのり)さんの8年に及ぶ試行錯誤の記録である。

僕らが「無農薬○○」と聞くと、農薬なしで作物を作るよりは手間はかかるのだろうが、決して不可能ではないだろう、と思ってしまう。ところが、本書序盤でその考えが間違っていることを教えられる。すでに僕らが「りんご」と呼んでいるものは、農薬なしでは育たないように何年、何十年もかけて品種改良された末の「りんご」なのだ、それはもはや難しいというものではなく、「不可能」の域のことなのだ。

では、その「不可能」をどうやって実現したのか、その努力の過程を本書は追っている。8年にも及ぶそれはもはや「信念」などというものではなく、本書でも書かれているように正気を失った、「狂気」に近い。それでも家族を支えていかなければならないというプレッシャー、とか、周囲の目にさらされながらも、その一つの道を突き進むなかで、木村さんがふとした折に何かに気づき、少しずつその不可能を可能にするためのステップを登っていく。

そこで教見えてくるのは、りんごや害虫や土の習性といったリンゴに直接的に関わる事柄がもちろん大部分なのだが、それ以外にも常識を打ち破るための人間としての心構えなどにも触れている。きっとなにか感じる部分があるだろう。

パイオニアは孤独だ。何か新しいこと、人類にとって本当の意味で革新的なことを成し遂げた人は、昔からみんな孤独だった。
リンゴの実をならせるのはリンゴの木で、それを支えているのは自然だけれどもな、私を支えてくれたのはやっぱり人であったな。
ジョニー・アップルシード
アメリカ合衆国初期の開拓者であり、実在の人物である。西部開拓期の伝説的人物の一人として、現在もさまざまな逸話や伝説で語り継がれている。(Wikipedia「ジョニー・アップルシード」

華岡青洲(はなおかせいしゅう)
江戸時代の外科医。世界で初めて麻酔を用いた手術(乳癌手術)を成功させた。(Wikipedia「華岡青洲」

【楽天ブックス】「奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家木村秋則の記録」

オススメ度 ★★★★★ 5/5
瀬戸内海に面した讃岐国・丸海藩。そこへ元勘定奉行・加賀殿が流罪となって送られてくる。やがて領内は不審な毒死が相次ぐようになる。

時代は徳川十一代将軍家斉の。藩内で起きる事件を、そこで生きるさまざまな人の視点から描く。その中心にいるのが捨て子同然に置き去りにされたほうと、引手見習いの宇佐(うさ)である。自分が阿呆だと思い込んで生きているほうは、親切な人に出会うことで、少しずつ成長していき、また、偶然のからほうとであった宇佐(うさ)も、その強い信念と行動力で物事の裏に潜むものに目を向ける力を育んでいく。

宇佐やほうが出会う人々が、物事を説くその内容には、どんな世界にも通じるような説得力がある。

半端な賢さは、愚よりも不幸じゃ。それを承知の上で賢さを選ぶ覚悟がなければ、知恵からは遠ざかっていた方が身のためなのじゃ。
嘘が要るときは嘘をつこう。隠せることは隠そう。正すより、受けて、受け止めて、やり過ごせるよう、わしらは知恵を働かせるしか道はないのだよ

物語は、そんな2人だけでなく、宇佐(うさ)が思いを寄せる藩医の後次ぎの啓一郎(けいいちろう)や、その父、舷州(げんしゅう)。同じく宇佐(うさ)が仕えるお寺の英心(えいしん)和尚など、世の中の裏も表も知りながら、どうやって人々の不安を抑え藩の平穏を保とうかと考える彼らの行動や考えもしっかりと描いている。

そして物語は、終盤に進むつれて、人々の心の中に潜んでいた不安が表に出てきて多きな災いへと発展する。

温和で優しく、つつましい働き者のこの民が、これほど度を失い乱れ狂ってしまうまで、いったい誰が追い詰めたのか。

誰かが原因なわけではなく、誰かが悪いわけでもなく、しかし、人々の心のすれ違いから誤解は生じ、やがてそれは大きな災いとなる。宮部みゆき作品はどれをとっても、そんなテーマが根底にあるが、本作品もそんな中の一つである。。

人の心の弱さ、不安や恐れが災いを生む。そして、時にはその恐れを沈めるためにも、妖怪や呪いなどが生まれるのである。迷信や伝説は決して意味なく生まれたものではないということを納得させてくれるだろう。

物語が終わりに近づくにつれ、この物語が示してくれることの深さに震えてしまった。単に、この物語が200年以上も昔を描いているゆえ、僕らの生きている現代とは別世界の話、と軽んじられるようなものではなく、迷信や伝説は、弱い心の人間がいる限り、どんなに文明が進もうとも必ず存在し続けるものなのだ。

序盤、やや聞きなれない職業名や地名に物語に入りにくい部分もあるかもしれないが、我慢して読み進めて決して後悔することはない。心にどこまでも染み込むような物語。この域の作品はもはや宮部みゆきにしか書けないだろう。

丸亀藩
物語で登場する丸海藩のモデル。讃岐国(香川県)の西部を領し、丸亀城(丸亀市)を本城とした藩。藩主は生駒氏、山崎氏、京極氏と続き廃藩置県を迎えた。(Wikipedia「丸亀藩」


江戸時代に1万石以上の領土を保有する封建領主である大名が支配した領域と、その支配機構を指す歴史用語である。(Wikipedia「藩」

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
好きなサッカー選手はいつでも僕の頭のなかにはいて、名波は大学時代から社会人になりたてのころ、常に僕のなかのそのポジションにいた。
本書では、名波が、過去の試合や経験を、過去のチームメイトなどと振り返って語る。左足にこだわりにこだわって、日本代表やジュビロの一時代を築いた彼の、サッカー観に触れることができるだろう。

本書はいくつかの章に分けることができる。前半の藤田俊哉との章では、名波と藤田という、高校からジュビロ、と、20年も一緒にプレーをしてきたからこそ語られる思い出や意見が描かれている。

オレが走れば、パスが出るに決まっている。名波は見ているに決まっている。どうしてパスが出るかなんて、考えたこともない

こんなのを読んでしまうと、そんな2人の関係に嫉妬してしまう。そしてまた、会話の節々から名波のパスに対するこだわりの深さを知るだろう。
受け手が「完璧だ」言っているというのに、しかしコンビは不満顔である。
─完璧なパスではなかったかと。
いや、違う。最後に詰めてきたDFが、少しだけボールにかすっている。DFに触れられない、でも、FWが早くダイレクトを打てる地点は、もう少し手前だったことになる。ボール半転がし手前ならば、触れられることなく入ったと思う。

そして後半では、山口素弘(やまぐちもとひろ)と共に、フランスワールドカップの日本代表を語る。

よく、若い選手が、アイツとは息が合うんですよ、と言っているのを聞くけれど、聞きながらいつもこう思うんだ。それでもあのときのオレたちほどじゃないだろう、って。少なくてもオレはそう思っていた。
その後の、Mr.Childrenの桜井和寿を交えて、サッカーと音楽のその創造性の部分に共通点を見出して語るシーンも悪くない。

あ?、やっぱりサッカーがしたいな。フットサルも楽しいけどサッカーがしたい。見なくても「お前はここにいるんんだろう・・・ほら」って、パスを出したい。

きっと読んだらみんな同じ様なことを思うだろう。

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オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
20年前に行方不明になった弟Josh。兄Orenは軍隊を辞めて、生まれ育った街に戻ってくる。

舞台となるのはアメリカの田舎町。
みんな街のすべてのひとの、仕事や人間関係や趣味まで知り尽くしているような小さい街。そんな限られた人間関係のなかで、20年前に失踪した少年の事件がふたたび街の人々を動かし始める。

前に読んだ同じ著者の作品「Judas Child」と非常に視点が似ているように思う。前作でもそうだったのだが、小さい町ゆえの人々の人間関係が物語の根底となっている。本作品では、その緊密さは、緊密さはゆえの暖かい親密さというようなポジティブな方向ではなく、緊密ゆえにすべてを知っていて、そんななかで人は人の悪いところを見ようとする余りに、生きるための窮屈さとして、ネガティブな描かれ方をしているようだ。

物語は行方不明になっているOrenの弟の骨と思われるものがときどきOrenの家のポーチに置かれていることから動き出す。真実が次第に明らかになる過程でいくつか印象的な要素が取り入れられている。たとえば、行方不明になったJoshが写真を撮ることに関しては類稀な才能を持っていたこと、一人の女性が書き続けているバードウォッチングのログブック、街の人は誰れでも一度は参加してしたことがあると言われる「死者を呼ぶ会」などである。そのログブックにはある日を境に実在する鳥は一切描かれなくなり町の人の人間性を暗示するスタイルへと変わっていた。そして、「死者を呼ぶ会」では、参加者は行方不明のJoshに毎回呼びかける話をする。これらの要素も物語を魅力的なものにしていると言えるだろう。

事件の真実よりも、その過程で描かれる、人間関係や人々の苦悩など心情に焦点がおかれている様に感じた。個人的にはもう少しスピード感が欲しいところである。

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
新聞記者の弓成亮太(ゆみなりりょうた)は昭和46年沖縄返還交渉の取材中に日米間の密約に気づく...。

以前より何人かから薦められていながらも機会がなかったため今回が初山崎豊子作品となった。物語冒頭で舞台となっているのは昭和46年であり、その題材は沖縄返還交渉という、僕にとっては生まれる前の出来事である。正直、あまり深く考えたことがなかったのだが、冷静に考えてみると、間違いなく沖縄返還というのは歴史的事実だったのだろう。そんな大きな出来事にいままでほとんど関心を持っていなかったことに少し驚かされた。

さて、物語は弓成亮太(ゆみなりりょうた)という、正義感あふれる敏腕新聞記者を中心に進む。沖縄返還交渉に関わるひとつのスクープが、やがて、「知る権利とは?」「外交とは?」という大きな問いかけになり、物語中で描かれる裁判のシーンを通じて、日常よく耳にする言葉の意味まで考えさせられるだろう。

本書を読了後に沖縄返還について調べてみると、本書の内容はかなり事実に近いことが描かれているらしい。きっと年配の人にとっては常識とも言える事件なのかもしれない。教科書には載っていないほど新しく、しかし自分が生まれる以前というほどの古い、この期間に起こった出来事はもっとも無関心にすごしてきてしまったようで、もう少し関心を向けるべきなのだと感じた。

とはいえ、このような内容では仕方がないことなのか、若干登場人物が多すぎて、物語に入り込みにくく、お世辞にも読みやすいとは言えない。また、後半部分はむしろ物語のそれまでの本筋とは外れて沖縄の悲劇の歴史に焦点があたっているように感じ、作者の訴えたいことが不明瞭な印象を受けた。一つの物語としてみるのか、それとも読みやすい現代史として本書を見るのかで評価は変わってくるのかもしれない。

本作品が山崎豊子の他の作品、たとえば「沈まぬ太陽」「白い巨塔」と比較するとどの程度の出来なのかが気になるところである。

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