2009年9月アーカイブ

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
走行中のトレーラーのタイヤがはずれ、歩行者を直撃して死に至らしめた。調査の結果は整備不良。納得のできない運送会社社長の赤松(あかまつ)は、大手自動車メーカーに闘いを挑む。

すぐにピンと来た方もいるだろう。この物語はフィクションでありながら、数年前に実際起こった出来事をヒントに描いているのは明らかだろう。物語中では「ホープ自動車」という名称で登場しており、そのグループは、現実の三菱グループと同様に、ホープ重工、ホープ銀行といったグループ企業動詞の協力関係が強い。

本作品では、企業のリコール隠しに関わる出来事をその周囲の多くの視点から描いている。タイヤの外れたトレーラーの所有者である運送会社の社長の赤松(あかまつ)、隠蔽体質を知りながらもそんな社員の一員として生きることしかできない社員。グループ企業というだけで支援を断ることのできない銀行員。妻を殺されて怒りの矛先を探す夫。そんな一人一人の人間物語に何度も目頭が熱くなった。

社会抱える矛盾とそんな矛盾だらけの世の中の中で必死に信念を貫こうとする生きかたを見せてもらった。

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オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
香港のツアーで一人の青年がいなくなった。同行していた人はみんなその青年のことをほとんど記憶していなかった。青年の思いを寄せていた人への手紙を託されたライターは自分でその青年を探そうとする。

不思議な雰囲気の物語。多くの人が海外旅行に出かける昨今であるが、人は「旅行」に何を求めているのか、そんな問いに対する今まで気付かなかった一つの答えを示してくれた気がする。

なんか実はもっといろいろ、もしくはもっと別のことを著者は訴えたかったのかもしれない。他の人が読めばまた、他の受け止め方があることだろう。
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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
男女の恋愛模様を描いた短編集である。

名作「私という運命について」のあの独特な空気をもう一度味わいたくて手に取った。実際、最初の物語「20年後の私へ」はその期待に応えてくれたと言えるだろう。
39歳にして離婚暦を持つ岬(みさき)は、多くの同年代の女性と同じように、人生を考え、自分の存在意義を考え、そして、恋愛に悩む。仕事を一生懸命こなしながら、お見合いなどをして人生が満足のできるものになるように努力もしている。

そんな中で遭遇するいくつかの真理や新たな疑問が、岬(みさき)の考えを通して見えてくる。

この人は愛するべき人を探しているのではなく、妻となるべき人を探しているのだ。その二つのどこがどう異なるのかはわからないが、そこはどうしても譲れない一線だった。

答えのない疑問だからこそ、それを考えることの無意味さと重要さという相反するものを感じる。

本作品自体は短編集という形式をとっているが、表題作「どれくらいの愛情」は十分なボリュームがある。その中で主人公である正平(しょうへい)の良き助言者である、不思議な力を持った男性の言葉が素敵である。

与えられた運命というのはいわば地面のようなもので、その地面があるからこそ、そこから飛び立つことができる。または与えられた運命は、最初に電車に乗る駅のようなもので、その始発の駅があるからこそ、別の目的地に向かって旅立つことができる。

主人公にすえられた登場人物だけでなく、その周辺の登場人物からも、お手本となるような生きかたをいくつも見れた気がした。カッコいいことは若いときだけ限ってできることではなく、強い意志を持ち、深く自分を見つめ続けて、その生きかたの意味を考え続ければ、何歳になってもできるものなのだと、教えられた気がした。

カリエス 脊椎を含む骨組織の結核菌による侵食などを指す医学用語。(Wikipedia「カリエス」)

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
大雪の中、小屋に孤立した動物件研究者たち。人間の味を覚えた巨大なヒグマがシャトゥーンが徘徊する。

タイトルから想像できるように、ヒグマが次々と襲ってくる物語である。ジョーズのヒグマ版とも言うべきか。そういう意味では読者の期待を裏切ることはないだろう。本作品の魅力はやはり人とヒグマとの格闘シーンと言うべきだろうか。といってもその多くは、四肢を引きちぎられ、目や鼻をもぎ取られるという、一方的に人間が惨殺されるというものなので、抵抗を持つ人もいるだろうが、ここまで描いた作品にあまり出会ったことがなかったので新鮮であり、同時に頭にこびりつくような恐怖感も植えつけてくれた。そのすべてがヒグマの習性に基づいて描かれているという点がただのホラーと異なりより恐怖を増幅させるのだろう。

描かれるのはそんなヒグマの恐ろしさだけでなく、シマフクロウやヤチネズミなどの野生動物にも触れ、多くの野生動物を減らしているのは人間の無知や、「自然を操作できる」という驕りのせいだと訴えてくれる。

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オススメ度 ★★★★★ 5/5
第二次世界大戦中のアメリカ側から描いた物語。アメリカに住む日系二世の3人の若者に焦点を当てている。

物語はアメリカから見た太平洋戦争であるが、三人の日系2世、しかもいずれも日本で生活した経験を持ち、多少なりとも日本語を話せる青年に焦点をあてているからこそ、今までと違った角度で改めて太平洋戦争を見ることができる。

ヘンリー・カワバタとジロー・モリタは幼馴染でともにリトル・トーキョーに住みながら、白人から受ける日系人の差別に苦しむ。一方、マット・フジワラはハワイで生活し白人の女性を恋人に持ちながらも、日本の真珠湾攻撃で彼らの生活は大きく変わっていく。

僕らが第二次世界大戦を振り返るとき、その印象は、日本は愚かな突撃を繰り返し、アメリカはそれを緻密な戦略で対応したというものであるが、本作品を見て改めて理解できたのは、戦争は勝とうが負けようが愚かな行為でしかなく、それは多くの不条理な死によって構成されるという事実である。

アメリカで過ごす日系人の目を通して、アメリカで起こっている多くの人種差別を理解することになるだろう。以上に迫害されていた黒人たちもいたという。主張するように黒人席へ座り「ぜんぜん汚くない」と主張する日系人の姿が印象的だ。こんな人が実際にいたなら誇るべきことなのだろう。

終盤のヘンリーが戦場で戦うシーンは、小説という媒体でありながらも、活字を追うことで脳裏にそのシーンがリアルに浮かんでくる、そして戦場の、不条理さ、無意味さ、愚かさ、そういったものを感じずにはいられない。少しずつ壊れていく自分の心を意識しながら、それまで信じていなかった神に訴えるシーンが強烈である。

神よ。見ていますか。 ここにはただ祖国を愛する純粋な男たちがいます。白人や日系人という分け方は関係なく、ドイツ兵という敵も存在はしない。国のために戦うという意味で、ここにいる者は皆、同じ覚悟と志を抱く同胞だった。 だから神よ。せめて苦痛を与えずに天へ呼び、安らかな眠りを与えたまえ。

3人の強く信念を持っていきている立派な日系人が、戦争という大きな力の前で、自分に無力さに失望し、自分の醜さを知り、それでもそんな自分自身と向き合って自分なりの答えを出そうとする生きかたは誰もが感銘を受けるだろう。

すでにいくつかの作品で栄光をつかんだであろう著者、真保裕一が描きたかった作品の一つなのだろう。その詳細な描写からそんな心構えが伝わってくる。

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