2009年8月アーカイブ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
第3回ラブストーリー大賞受賞作品。

韓国で翻訳家になるために勉強しながら生活している26歳の由紀(ゆき)を描く。

日本で生まれ育ちながらも、韓国で生活する由紀(ゆき)の目を通して、韓国と日本の文化の違いが見えてくる。未だ恋愛においては男性の方が年配なのが一般的と考えられるところや、女性がタバコを吸うのを疎ましく思われる点は、一昔前の日本を見ているようだ。

また有紀(ゆき)が、父親の仕事の都合で幼い頃引越しを繰り返しいたという過去が、有紀(ゆき)の正確に大きな影響を与えているという点も興味深い。思春期に転校を繰り返すことを強いられた人間の人格形成の一端を垣間見た気がする。

わたしが適応するのは表面だけ。心を開ききれないから。新しい色に染まってゆくたびに、いったん自分を殺すこともしなくちゃいけない。そればかり繰り返していたら自分が無になりそうだから。必死で自分を守ってしまうの。

読み終わって改めて本のオビを見てみると、どうやら濃厚な官能シーンが評価された作品らしいのだが、個人的には由紀(ゆき)を含む登場人物の性格と、それを形づくる要因となった生活習慣や過去の描き方が、比較的納得のできるもので、とても印象に残った。

そして気に入ったのはこの言葉。

いろんな土地でたくさんの悪意に出会ったけれど、それよりもたくさんの善意に出会った。

そうそう、悪意に出会って、時には嫌な思いをすることは避けられないけど、勇気を持って行動を起こすことによって僕らはいろんな人の優しさや、素敵な出会いに触れることができるのだ。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
囲碁棋士の椎名弓彦(しいなゆみひこ)は対局の前日、殺人事件に巻き込まれ、その容疑者として弟の直人(なおと)が拘束される。

言うまでもないが本作品を特長付けているのは囲碁という誰もが知識としては持っていながらも、あまり馴染みのないゲームをその題材においている点だろう。殺人事件の背後に隠された人間関係はもちろん、その過程で描かれる日本の囲碁事情、また、囲碁棋士たちの生活が見えてくる点が新しい世界を見せてくれた気がする。

そして、力で優劣を決められる世界だからこそ、才能を持つものに対する羨望、嫉妬、畏れが、多くのスポーツやビジネスシーン同様、この世界でも見えてくる。

終盤、囲碁の対局を描くシーンは、囲碁のルールすら自信のない僕にとっても、こんな真剣勝負をしてみたいと思わせる。囲碁をスポーツと呼ぶかは議論のわかれるところであるが、どんな分野でも自分と同程度の相手と思う存分力を発揮して勝負をする瞬間というのは、最高の瞬間に違いないのだと思い出させてくれた。

体力の衰えによらず一生楽しむことのできる囲碁というものに大きく興味をかきたてられた。

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オススメ度 ★★★★☆ 4/5
岡崎優(おかざきゆう)の夢はオリンピックマラソンで金メダルを獲ること。幼いころから毎日のジョギングを欠かさなかった。彼にとっては箱根駅伝も通過点にすぎない。大学の陸上部へ入部したあとも優(ゆう)の考え方は変わらなかった...。

よくある青春小説だと思って手に取った。何人かの平凡な集まりの平凡な部が、誰かの登場によって少しずつ意識改革を伴いながら遠かった目標に近づいていく...。そんな物語を想像していたので、優(ゆう)の自分を特別視し、他人を蔑む態度はずいぶん新鮮に映った。

仲間と慰め合うのは勝手だけど、そういうのに僕を巻き込まないでくれる?

僕自身も努力とか根性という根拠のないものよりも、科学や理論的な考え方で向上に努める人間だから、彼のそんな自己本位な考え方や歯に絹着せぬ物言いも、どこか共感できてしまう部分があるのであった。それでも優(ゆう)は「自分は特別な人間だから特別扱いされるのが当然」ということまで公言してしまうから、次第に部の中でも孤立していく。

いろんな物語を読みなれている読者なら、ああ、これから彼はどこかで妥協し、仲間の大切さに気づいていくのだろう。と予想するのだろう。しかしなかなかそうならず、さらにいうなら、彼の自信も日々の積み重ねによるものである点が使い古されたスポ魂物語と違う点かもしれない。

また、物語の舞台となっている大学の部活のパソコンなどの技術を駆使し、練習中の血液検査から適度な練習量を測る科学的な取り組み方にも大いに刺激を受けた。

僕自身もうある程度成熟して、人間関係の大切さもわかったつもりでいるが、優(ゆう)のようにわき目も振らずひとつことに一直線に向かう生き方に読みながら、憧れを抱いてしまった。それができるのは、その間に生じる数々の障害を乗り越えられる強い気持ちを持ったものだけなのだろう。

そして物語はそんな優と陸上部の部員たちとのやりとりだけでなく、優(ゆう)の母や父、兄との関係にも及んでいく。

結構、読み始める前の印象以上に心に深い作品であった。

ほかの価値観を知らないから、自分の価値観をたった一つの正解だと思ってしまう。普通は友人や先輩や、そういった自分と違う考え方をもった人と接していくうちに、自分が絶対じゃないってことを学んでいくものなんだ。
CPK(クレアチンホスホキナーゼ)
動物が持つ酵素で、筋肉の収縮の際にエネルギー代謝に関与している。

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