2009年5月アーカイブ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
裏の世界でコンサルタント業を営む女性、水原(みずはら)。過去何人もの男性と関係を持ってきたがゆえに、人を見てその人の人間性を見抜く技術を持つ。

水原のクライアントの多くは、裏の世界に生きるものたち。おのおのが独自のルールに則って生きている。裏の世界を舞台にした物語の中ではよく語られることだが、彼らは表の世界以上に、「義理」…言い換えるなら「貸し借り」を重んじる。なぜなら、法律を気にしないで生きている以上そこには刑罰の類のものが存在しない。それはいわゆる強い恨みを買えばそれはすぐに「死」につながるからである。そのような考えは本作品でも大きく扱われている。

そしてそれと対比するように、法律の許す範囲でなら平気で人を裏切る人間として表の世界の人々に触れている。

いくつか興味深い内容はあったが、そこまでである。物語というのは、その主人公に共感したり、その主人公の生き方にあこがれたりしてこそ楽しめるもの。すでに中年の域に差し掛かりながら体を武器にして裏の世界で生きる女性に、どうやって読者は魅力を感じればいいのだろう。


トローリング
曳き釣り。ルアーやベイトをボートで引っ張って行う釣りの一種。

【楽天ブックス】「魔女の笑窪」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
安積啓二郎(あづみけいじろう)は自分の事業からの撤退を機に、兄の経営していて存続の危機に瀕していた実家のガラス工場の建て直しを担うこととなる。啓二郎(けいじろう)はそのガラス工場で透子(とうこ)というガラス工芸作家に出会う。

本作品には、優秀な営業マンが企業を立て直す経済小説の要素と、恋愛小説の要素が取り入れられている。

この物語で新しいのはその恋愛の形だろうか。啓次郎の妻は経済的にも自立したキャリアウーマンで夫の浮気も仕方がないものと考える。また、透子もガラスと恋人ならガラスを選ぶという女性。男性目線で描かれた物語でありながらも女性の強い生き方を魅せてくれる。

また、ガラス工場という点でも、面白い。大田区という世界でも有名な工場地帯を舞台としており、やや頑固な生き方をしながらも、そこで働く人々は高い技術を持つが、市場調査や営業力を持たない。そこに経験豊かな啓二郎(けいじろう)が取締役として加わることで徐々に業績は上向いていく。

屈折率のものすごい高いガラスのエピソードはなんとも興味深くロマンチックで印象に残った。自分の中の話のネタの一つに加えておきたい。

その厚さにやや戸惑うかもしれないが、個人的には、読んで後悔することのない作品と感じた。

予納金
自己破産を裁判所に申立てする際、裁判所に収めるお金のこと。これを収める事が出来ないと自己破産の手続を受けることはできない。

クラインの壺
境界も表裏の区別も持たない(2次元)曲面の一種。(Wikipedia「クラインの壺」

参考サイト
日本ガラス工芸協会

【楽天ブックス】「屈折率」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
テレビ報道局に勤める布施京一(ふせきょういち)は独自の取材で数々のスクープをものにする。

布施(ふせ)が真実を知るために、現場に潜入していく様子が繰り返し描かれる。時にはマリファナやコカインを楽しむ芸能人達と遊んだり、中国人との博打に勤しんだり。スクープが目的なのか、スリルを楽しみながら生きているうちにスクープが副産物として生まれるだけなのか…。

本作品から改めて伝わってくることだが、ただの殺人事件や芸能人の覚せい剤所持のような日常的事件ではスクープになりえない。多くの問題が未解決のまま、裏の世界で徐々にその触手を伸ばしていることに気付くだろう。大物政治家の癒着などはいまさら驚くようなことでもないが、マフィアと組んで援助交際をしながらコカインを売りさばく女子高生などはその1例である。

本作品の魅力は、布施(ふせ)と、刑事の黒田(くろだ)のやりとりにあるかもしれない。頻繁に情報交換をする2人は、一見互いに毛嫌いしていながらもお互いの心のそこにある「正義」を認めている。

「俺たちだって、若い頃は将来についての不安はあった。」
「そんなのとは質的に違いますね。将来の夢が持てないんですよ。どうしたって、世の中よくなりそうにない。大人は世の中に絶望している。その絶望を子供たちは敏感に感じ取るのかもしれませんね。」
「誰がこんな国にしちまったんだろうな。」
「俺たちでしょう。」

人間の中に、お金や性に対する欲望があるかぎり単純に取り締まることのできない多くのこと。そんな類の多くの問題に改めて目を向けさせてくれる作品であった。

LSD
非常に強烈な作用を有する半合成の幻覚剤である。(Wikipedia「LSD(薬物)」

アメリカ禁酒法
1920年から1933年までアメリカで実施された。(Wikipedia「アメリカ合衆国憲法修正第18条」


【楽天ブックス】「スクープ」

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
1グラムで20キロトンの核爆弾に匹敵する反物質が盗まれ、バチカンのどこかへ持ち込まれた隠された。犯行は宗教と敵対し、過去迫害され続けたいた組織イルミナティによるものだった。

翻訳によるニュアンスの違いが嫌いで、ずいぶん長いこと海外小説から離れていたのだが、周知のようにこの話題性。これだけ話題になる作品はどれほどのものなのか、と久しぶりに手に取ってみた。

物語の舞台はバチカン市国とその周辺のつまりイタリア、ローマである。物語中に出てくる通りの名前や建造物、彫刻まですべて実在する物なので、いやがおうにもそこにある芸術への興味を喚起されることだろう。

また、イルミナティなる、科学を追求しながら教会から迫害されていた組織がその黒幕であるということから、物語中では科学側の主張と、それと相反する宗教側の主張が見られ、それは僕ら日本人のような、無神論者からみても決して理解し難いものではなく、また、ガリレオの地動説など、教会と科学者と間で起こった過去の諍いなどにも触れられているため、いろいろな考え方に触れられるだけでなく、多くのことを考えさせてくれる逸品である。

物事の謎をすべて解き明かそうとするのが科学なら、謎を「神の力」としてきたのが宗教であり、それならその科学と宗教は共存できないのか、敵対しつづけるものなのか…。

なかでも、イルミナティの策略によって窮地に立たされた教会がメディアを通じて教会の必要性を訴えるシーンは強烈な印象を残してくれた。

科学とはどんな神なのでしょうか。民に力だけを与え、その使い方に関する倫理の枠組みを示さないというのは、どんな神でしょうか。子供に火を与えるだけで、それが危険だと注意してやらない神とは、いったい何者ですか。
あなたがたは大量破壊兵器を量産しますが、世界中を飛び回って指導者達に抑制を求めるのは教会です。あなたがたはクローン生物を創り出しますが、人々におのれの行動の倫理的な意味を考えるよう釘を刺すのは教会です。

そして個人的に興味深々だったのが、イルミナティに伝わる伝統的なアンビグラム。土(earth)、空気(air)、火(fire)、水(water)の四台元素の文字が、いずれも点対称(つまり上から見ても下から見てもearthと読める。)で描かれる。そんなことあるのか、と思うかもしれないが、実際にその印は本の中で見ることができる。個人的には本作品のもっとも魅力的な要素の一つだと感じている。

「ダビンチコード」など、他の作品も読まなければならないような気にさせてくれた。


アクアバ人形

ガーナのアシャンティ族の若い女性が妊娠中に背中にくくりつける木彫りの像。将来、強壮な子供が授けられるようにという願いが込められている。

参考サイト
Wikipedia「イルミナティ」
Wikipedia「ビックバン」
Wikipedia「反物質」
Wikipedia「アンビグラム」

【楽天ブックス】「天使と悪魔(上)」「天使と悪魔(中)」「天使と悪魔(下)」

渋谷の街を管轄する神南署。刑事課強行班係の安積(あずみ)係長とその部下達の様子を描く。

なんといっても本作品の見所は、安積班の4人の個性豊かな刑事たちだろう。生真面目な村雨(むらさめ)、最年少の桜井(さくらい)、太って緩慢な動作しかできないにも関わらず鋭い洞察力を持つ須田(すだ)。そして、俊敏で緻密な黒木(くろき)。読み終わった後には安積班の4人の名前と特徴を覚えてしまっていることからもその個性の強さがわかるだろう。

そして当然のように、昨今の刑事物語では当然のように語られる、現場捜査員と上層部の幹部たちの間で起こる摩擦やそ子にはさまれる中間管理職たちの葛藤も描かれている。

警察に限らずどんな組織にも二つのタイプの人間がいる。上司に可愛がられるタイプと部下に慕われるタイプだ。それはなかなか両立しない。

8編の物語から構成され、いずれも安積班を扱っているがそれぞれ活躍する人物は微妙に異なる。刑事という職場にある強い信頼関係がなんとも爽快である。

【楽天ブックス】「神南署安積班」

オススメ度 ★★★☆☆
現在43歳の伸郎(のぶろう)は元銀行員で現在はタクシーの運転手。その生活を描く。

「もしあのときこうしていたら…ああしていたら…」。誰もが一度は考えたことがあるのではないだろうか。生きているうちに時に迫られる選択。人生のターニングポイント。一つの道を選択したら、もう一方の道を選択した場合に自分の人生に起こる結果を僕らは知ることができない。

過去のエリート人生から脱落して、その間の期間だけのつもりで選んだタクシーの運転手という職業。長距離の客に出会えるかどうかが運に左右され、それ以外の時間を車の中で一人でいろいろ考えてしまうからこそ陥いる、後ろ向きな後悔のスパイラル。読んでいる人間までへこませるようなマイナス思考のオンパレードだが、やがて自分だけが不幸なわけではなく、また、青く見える隣の芝生も、実際には多くの欠点を抱えていることに気付いていく。

曲がるべき道を、何度も曲がりそこねた。脇道に迷ったし、遠回りもした。でも、どっちにしたって、通り過ぎた道に、もう一度戻るのは、ちっとも楽しいことじゃない。

結局は今を前向きにとらえて生きることこそ人生を楽しむ最良の方法なのだと伝えたいのだろう。僕にとってはそれは新しい考え方でもなんでもなく普段から意識していることではあるが、普段人生や運命をどうとらえているか、そういう読者の人生に対する姿勢によって、本作品の受け止め方は変わってくるのではないだろうか。

難しいことを考えずにのんびりとした気分で読むには悪くないかもしれない。

【楽天ブックス】「あの日にドライブ」

オススメ度 ★★★☆☆
日本でコカインネットワークを築いた朝倉恭介はアメリカで組織の長であるファルージオを介して幹部たちと顔を合わせる。その後ファルージオが襲撃されたことで組織は、トップ争いの混乱に向かう。

「Cの福音」の続編に当たる。舞台をニューヨークに移し、そこをテリトリーとする多くの組織、中国系マフィア、イタリア系マフィアなどの間で広げられる勢力争いと、駆け引きに焦点があてられている。

メインはそのマフィア間の抗争であるが、むしろ興味をひかれたのが、湾岸戦争の後遺症に悩む元米軍兵士のアラン・ギャレットの人生である。

国を守るために多くのものを犠牲にしたのに、国は何も助けてはくれない…。この物語はもちろんフィクションであるが、似たような話は世界中にあるのだろう。

物語自体は朝倉(あさくら)とギャレットが出会って自らの安全やプライドを守るために闘いを始めるというものだが、朝倉恭介シリーズの「つなぎ」的な印象が否めない。このシリーズの続編を今後も買うか考えてしまう。

ただの人間の物語であるだけでなく、なんらかのテーマを内包した物語でなければ貴重な時間を割いてまで読む意味を見出せなくなるかもしれない。

アパラチン会議
1957年11月14日にアメリカ合衆国ニューヨーク州の町オウェゴ(Owego)の郊外アパラチン(Apalachin)で開かれたマフィアによる秘密会談のこと。 (Wikipedia「アパラチン会議」

【楽天ブックス】「猛禽の宴」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
沖縄の川で無人のボートが発見された。そのボートに残されていたカメラには不思議な生物が写っていた。沖縄の伝説のクチフラチャは実在するのか、ルポライターの有賀雄二郎が動き出す。

「TENGU」「KAPPA」に続く、柴田哲孝の未確認生物シリーズの第3段である。さすがに3作目となると、その生物が醸し出す不穏な空気などで、マンネリな感を出してしまうかと思いきやそんなこともなくしっかり楽しませてもらった。

沖縄の文化やその土地の人柄、アメリカの支配下におかれた沖縄の歴史的背景にまで触れながら構成されるストーリー。科学と迷信や伝統を組み合わせるそのバランスの良さは本作品でも健在である。

ただ、今回は最終的にその生き物と地元の人間との戦いになることから、そのシーンには人間のエゴのようなものを感じてしまった。

【楽天ブックス】「Ryu」

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