2007年9月アーカイブ

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
霊柩車の運転手を務める怜座彰光(れいざあきみつ)。その特異な職業とその周囲で起こった事件を物語にしている。

霊柩車の職業という普段接することのない人間を主人公にしているためにその周囲で起こる一般の人にとっては非日常的である日常的なことの描写のすべてが非常に新鮮で面白い。途中、やや現実離れした展開も見せるが、それはあとがきで作者も言及している通り、意図的なもののようだ。物語中で、死に近い場所で毎日生活しているからこそ至ったであろう考え方がしばしば出てきて、それがとても面白い。

私やきみは死と向きあって日々過ごしているが、世間の人々はちがう。ふだん、死というものを忘れている。すなわち、生というものすら意識しないんだ。

千里眼シリーズ、催眠シリーズ、マジシャンシリーズなど、終わり方を見るとこの怜座彰光(れいざあきみつ)の物語も続編へと続きそうな気配を持っていた。今回は第1作ということで、その特異な環境やその職業の社会との関わりだけに触れるだけで、とりたててしっかりとした筋や世の中を風刺した内容を伴っていなくても、ある程度読者を満足させることができたであろうが、自作からはしっかりとしたテーマが必要になってくるだろう。次作はその辺に注目して読んでみたい。

クリープ現象
アクセルを踏まなくても勝手に動き出す現象のこと。這い出し現象。オートマチック車にのみ起こる。これを防ぐためにはフットブレーキを踏んでおくか、サイドブレーキを引く必要がある。

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オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
主人公の泉水(いずみ)と父親の違う弟、春(はる)。あるとき放火事件が立て続けに起こり、春(はる)が次の放火場所を予測した。闘病中の父親と、すでに亡くなっている母親。少し変わった家族の物語。

物語自体に大きな流れがあるわけでもなく、取り上げているのは探せば世の中のどこかにありそうで目立たぬ人間関係である。ただ、そんな物語の中に散りばめられた、泉水(いずみ)と春(はる)の計算されつくした言葉のやり取り。それこそがこの物語の見所なのだろう。随所に溢れる、世の中を見透かしたような台詞の数々を読者は楽しむべきなのかもしれない。

政治がわからぬ。けれども邪悪に対しては人一倍に敏感であった。

個人的には僕の好みの作品ではないが、これはもはや好みの問題である。世間的な評価は非常に高い作品であるので手にとって各自が自分で評価してみるのも面白いだろう。

p53遺伝子
RB遺伝子とともに最もよく知られている癌抑制遺伝子。

テロメア
真核生物の染色体の末端部にある構造。染色体末端を保護する役目をもつ。

ローランド・カーク
1950〜1970年代に活躍したアメリカ合衆国のサックス奏者。

ボノボ
チンパンジーと同じPan属に分類される類人猿である。別名を、ピグミーチンパンジーともいう。

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オススメ度 ★★★★★ 5/5
第31回メフィスト賞受賞作品。

大雪の冬の日。青南学院高校の生徒8人はいつものように教室に登校してから、自分たち8人以外に誰も校舎内にいないことに気づく。窓もドアも開かずに校舎の外にでることのできない不思議な状況の中で、2ヶ月前の学園祭の最終日に同じクラスの生徒が自殺したという記憶に思い至るが、自殺者が誰だったかが思い出せない。そして、鳴らなかったチャイムが響く度に、8人の中から1人、また1人と消えていく。

爽やかな学園モノだと思った序盤。チープなホラー小説だと思った中盤。最後には、途中で抱いたそんな懸念をすべて吹き飛ばして、読後の心地よい満足感を与えてくれる。

物語を通じて、8人の生徒達と、個々の回想シーンの中で想起される人々の描写の緻密さが読者をひき込むだろう。才女も秀才もクラスのヒーローも。どんな人であれ、その生きてきた長さに比例した辛い過去や悩みを持っていて、その事実と向き合いながら成長する様が巧みに描かれている。学校や教室、そういった狭い世界の中だからこそ目立つ人と人との争いや嫉妬。それらは学校を卒業して社会という広い世界に出た僕のような大人にとっても決して無関係なものではない。

人にかけられた言葉の裏の裏まで読んで気を使い、溜め込んでそして泣いてしまう。投げつけられた小石を自分から鉛弾に変えて、しかもわざわざ心臓に突き刺してしまうような傾向がある。自分自身のことを、そうやって限界まで責める。
優しいわけではない。単に、他人に対する責任を放棄したいだけなのだ。人を傷つけてしまうのが怖い。ただそれだけだ。相手の声を否定せず、他人の言いつけを素直に聞いてさえいれば、誰のことを傷つける心配もない。だから断らない。それはとても楽な方法で、とても臆病な生き方だ。
言葉の遣り取りや他人とのふれあいの中で誰かを知らずに傷つけてしまったとしても、そんなものはおよそ悪意とはかけ離れたものだ。たとえどんな人間であっても、そうした衝突なしに生きていくことはまずできない。
努力の方向が下手な奴っていうのはいるもんでね。勉強してないわけじゃないのに成績が上がらない。そしてそれが自分ことを追いつめる。

時には執拗なまでの登場人物の性格の描写。時の止まった校舎の中や中学生時代の経験。描かれる時間が頻繁に変わることで、本筋の進行の遅さに戸惑うこともあったが、終わってみれば、その詳細な描写のすべてがラストのために必要なものだったと気づくだろう。

集団失踪事件という歴史上の謎の事件に、作者自身の解釈とアレンジを加えて物語の舞台となる時の止まった校舎に説得力を持たせている。そして、それによって時の止まった校舎が、自殺した誰かが作り出した世界、という結論に落ち着いたからこそ、8人の生徒たちは「罪の意識」というものについて考えることになるのだ。自殺したのは誰だったのか。なぜその人の名前を忘れたのか。自分はそんなにも軽薄な人間だったのか、と。

どうかきちんと死んでいて。死んでしまっていて、お願いだから。

社会が責める罪、法律が課す罪。被害者の恨みや社会の記憶が消えても、心に残った罪悪感は決して消えることはない。

ややじれったさを覚える中盤の展開だが、そこにはクライマックスへ向けた様々な伏線が散りばめられている。ラストでそれらのパズルのピースが一気に組みあがっていく。多くの材料を緻密に散りばめてラストに向けって一気にくみ上げるその展開力は「見事」の一言に尽きる。この本を読み終えた今。誰かとこの内容の話で盛り上がりたい気持ちで一杯である。

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オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
妻を殺された恨みを晴らすために非合法組織の社員として潜入した鈴木(すずき)。人を自殺させるのが仕事の鯨(くじら)。殺し屋の蝉(せみ)。法律の手が届かない場所で繰り広げられる世界。

物語中で、引用される、ガブリエル・カッソの映画やロックスター、ジャック・クリスピンは伊坂幸太郎の架空の人物らしい。物語を楽しむと同時に現実世界の知識を得たい人にとっては敬遠されることなのだろう。それでもこの引用された架空の映画監督ガブリエル・カッソの映画の描写が僕にとってはこの物語でもっとも印象的なシーンとなった。

大きなテーマを裏に秘めているようで、その輪郭は最後まで曖昧なままである。どこまでが現実でどこまでが非現実なのか。著者の訴えたいことをはっきりと汲み取りたい僕にとっては、この曖昧さは受け入れ難く、好みの作品とは言えないが、普段とは少し異なる物語に触れたいと感じている人は一度手にとってみる作品なのかもしれない。

スタンリー・キューブリック
映画監督。「2001年宇宙の旅」「アイズ・ワイド・シャット」など。

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