「千里眼 メフィストの逆襲」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
4年ぶり2回目の読了。「千里眼」第1シリーズ第5作である。「千里眼 ミドリの猿」と「千里眼 運命の暗示」では中国と日本の問題を題材に取り上げていたが、本作品では北朝鮮問題を題材に取り入れている。「千里眼 岬美由紀」と2冊で一つの物語を構成する。
物語冒頭では岬美由紀(みさきみゆき)の自衛隊時代のエピソードが描かれている。自衛隊という矛盾した存在を現場の目線で語っている。

軍人と同様の責務を求められながら、軍人であることを公に否定され、公務員であることを自覚せねばならない立場。そんな自衛隊員のアイデンティティの矛盾が、やがては有事の際にとりかえしのつかない失策につながるのではないか。
われわれはいったいなんのために存在するというのだ。自衛隊に先制攻撃が許されないのはわかる。が、防御のための応戦さえできないというのでは、存在意義がないではないか。自衛隊は文字通り、憲法上あいまいにされてきた解釈の泥沼にはまってしまっている。

物語途中から李秀卿(リ・スギョン)という北朝鮮工作員と疑われる女性が大きく関わってくる。李秀卿(リ・スギョン)と美由紀(みゆき)の議論は双方とも祖国の正当性を主張するもので、育った環境によってお互い理解することの難しさを見せてくれる。

日本人は、外国人がたどたどしい日本語でしゃべるというだけで、まるで知性が同等でないかのような錯覚を抱きやすい

拉致問題など、北朝鮮問題に興味を抱かずにはいられない作品である。
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「千里眼 洗脳試験」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
4年ぶり2回目の読了。「千里眼」第1シリーズ第4作である。奥多摩の山中で行われていた自己啓発セミナーの参加者4,000人が人質に取られた。「千里眼」で凶悪なテロを画策し、「千里眼 運命の暗示」で死んだとされた友里佐知子(ゆうりさちこ)が企てた陰謀である。
世間で認識されているような、人を思いのまま操る”洗脳”は現実にはあり得ない。という立場に立ちながらも、4,000人ものセミナー参加者が抵抗も見せずに施設の中に人質として留まってしまった状況に、「洗脳」の存在を信じる世間に対して、美由紀(みゆき)や嵯峨敏哉(さがとしや)は心理学的立場から真実を探ろうとする。
世にはびこる凶悪事件について、その犯人を「異常」とか「洗脳された」という一言で片付け、それ以上理解しようとしない現在の世の中にに疑問を投げかけているのがこの物語のテーマと言えるだろう。

意識の変調を、異常とかおかしいのひとことで切り捨てていたんじゃ、進歩も発展もない。あの参加者のようなひとたちと理解しあえるときは、永遠にやってこない

どんな凶悪な犯罪者だろうと、そのような行為を働く過程、育った環境にその心を育む土壌があったはず。そんな考え方は普段の人間関係にも当てはめることができる。理解し難い行動に走る人、仲良くなることはできないかもしれないがその気持ちを理解することはできるかもしれない。
物語終盤では友里佐知子(ゆうりさちこ)と岬美由紀(みさきみゆき)が向き合って言い争う場面がある。決して知ることのできな人間の本質、生きる意味。お互いの信念を言葉にしてぶつけ合う、その台詞の数々はどれも心に響く。結局その人生に悲観するか希望を見出すかは本人次第なのである。そこに、間違っているとか正しいとかいうものはない。


ダッチロール
機体の傾きと機首の方向が左右に変化を繰り返し、進行方向が安定しなくなる現象。
メソッド演技
せりふを抑揚で意味づけしたり、外見の動きで演技を説明したりせず、内面的な心を大切にする演技技法。
レム睡眠
浅い眠りを指す。体の骨格筋は弛緩状態だが、脳は覚醒に近い状態で活動し、まぶたの下で目がキョロキョロと動き、「体は眠っているのに脳は起きている」という状態。一般的には、入眠してから最初のレム睡眠出現までは60〜120分。その後、ノンレム睡眠とレム睡眠をおよそ90分周期で繰り返す。ちなみに、夢を見るのはたいていこのレム睡眠のときが多い。
ノンレム睡眠
いわゆる深い眠りを指す。脳の温度は下がり、体は弛緩して心拍のテンポも遅くなり、眼球は上転してほとんど動かない、「脳も体も休んでいる」状態。さらにノンレム睡眠にも深い時期と浅い時期がある。このノンレム睡眠の深さは睡眠の質とも関係しており、熟睡感に影響すると考えられている。
ブランチ・ダビディアン事件
1993年、アメリカ・テキサス州ウェイコで起きた、宗教団体ブランチ・ダビディアン(Branch Davidian)による武装立て籠もり、および集団自殺事件。ただし、『自殺』という見方には異議・疑問も呈されている。
人民寺院
牧師ジム・ジョーンズが創設した宗教団体。もともとはアメリカ合衆国インディアナ州に存在した団体であったが、反社会的なカルト宗教として急成長。南米・ガイアナのジョーンズタウンに自給自足のコミュニティを作ったが、1978年11月18日、ジム・ジョーンズを含む900人以上が集団自殺。そのうちの300人以上が他殺だった。
参考サイト
日本航空350便墜落事故(Wikipedia)
羽田沖日航機墜落事故体験記
人民寺院事件/信者900人の集団自殺事件人民寺院事件/信者900人の集団自殺事件
御船千鶴子(Wikipedia)

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「千里眼 運命の暗示」松岡圭祐

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
4年ぶり2回目の読了。「千里眼」第1シリーズ第3作である。前作「ミドリの猿」の続編。岬美由紀(みさきみゆき)と嵯峨敏也(さがとしや)、そして刑事の蒲生誠(がもうまこと)は日本への宣戦布告間近の中国奥地に降り立つ。
集団マインドコントロールを行っているメフィストコンサルティングのトリックに迫っていく。フィクションということで、深く考えずにその手法は「可能」と受け止めて読み進めるしかないが、美由紀(みゆき)の解決手段は読者に大きな驚きを与えてくれるだろう。


プラシーボ効果
あなたの病気を治す薬だと何の薬利作用も無い錠剤を与え、その人の病気が治癒、または改善する事。
ジャイロ効果
回転体(自転車の場合は車輪)が角運動量を保存しようとする働きで、回転体の回転数および質量が大きいほど効果が大きい。日常的に触れているジャイロ効果としては、自転車の車輪などが挙げられる。

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「千里眼 ミドリの猿」

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
4年ぶり2回目の読了。「千里眼」第1シリーズ第2作である。岬美由紀(みさきみゆき)がODA査察中に戦火に巻き込まれているアフリカの子供を救ったことが、中国の対日感情を悪化させ、開戦の気運を高める。追われる身となった美由紀は、同様に追われている立場で優秀なカウンセラーの嵯峨敏也(さがとしや)と出会う。
第1シリーズ第2作である本作品は、第3作の「千里眼 運命の暗示」とあわせて一つの話を形成している。本作品は「催眠」シリーズと「千里眼」シリーズの世界が交わる作品である。この作品では、美由紀(みゆき)と嵯峨(さが)の周囲の奇妙な出来事の謎を、倉石勝正(くらいしかつまさ)というベテランのカウンセラーを加えた3人で解いていく。
読み進めていくうちに「催眠」というものに対する世間一般的な誤解と、正しい解釈をわずかであるが知ることができるだろう。人を意のままに操るなど不可能ということを繰り返しながら、それを可能にしている陰謀の真相に迫っていく。本作品は次作「千里眼 運命の暗示」の序章といった感じである。


クロム
原子番号24の元素。元素記号はCr。金属としての利用は、光沢があること、固いこと、耐食性があることを利用するクロムめっきとしての用途が大きい。また、鉄とニッケルと10.5%以上のクロムを含む合金(フェロクロム)はステンレス鋼と呼ぶ。
アンチモン
原子番号51の元素。元素記号はSb。アンチモン化合物は古代より顔料(化粧品)として利用され、最古のものでは有史前のアフリカで利用されていた痕跡が残っている。
公安調査庁
破壊活動防止法や無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律に基づき、日本に対する治安・安全保障上の脅威に関する情報収集(諜報活動)を行う組織。
ガムラン
東南アジア・インドネシア・ジャワ島中部の伝統芸能であるカラウィタンで使われる楽器の総称。
ナルコレプシー
日中において場所や状況を選ばず起きる強い眠気の発作を主な症状とする精神疾患(睡眠障害)である。笑う、怒るなどの感情変化が誘因となる情動脱力発作(カタプレキシー)を伴う人が多い。入眠時もしくは起床時の金縛り・幻覚・幻聴の経験がある人も多い。夜間は頻回の中途覚醒や、幻覚や金縛りを体験するなど、むしろ不眠となる。1日の睡眠時間の合計は健常者とほとんど変わらない。
ヒエロニムス・ボス
ルネサンス期のネーデルラント(フランドル)の画家。

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