「ルパンの消息」横山秀夫

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
15年前に自殺として処理された女性教師の墜落死は、実は殺人事件だった。そんなタレ込み情報が警視庁にもたらされた。時効まで24時間。当時不良高校生だった喜多芳夫(きたよしお)と竜見譲二郎(たつみじょうじろう)と橘宗一(たちばなそういち)の三人組が決行した悪戯がその事件に大きく関わっていた。喜多(きた)と竜見(たつみ)の供述により二転三転しながら次第に15年前の真実が明らかになっていく過程がスリリングに描かれている。
一気に読ませるストーリー展開はさすが横山秀夫作品といった感じである。そして物語中においても、聡明だったが現在はホームレスとなり公園のベンチで寝ている男、不良だったがある女性との出会いを期に進学を志し、しっかりした家庭を持った男など、事件関係者の人生が適度に描かれていて、十人十色の生き方があるのだと感じさせてくれる。そしてそんな人生をつくった昭和という時代に疑問をも投げかけてくれるのだ。

戦争も戦後も薄れた昭和の後半という奴は確かにそんな時代だったかもしれない。何もかもが膨れて、伸びて、伸びきって・・・。なぜ豊かになったのかみんな次第にわからなくなっていった。アポロの仕組みも技術も何もわからずに、テレビの映像で月面を跳ね回る男たちを繰り返し見せられる、あの奇妙な感覚が昭和の後半、ずっと続いていたような気がする・・・

ただの刑事物語では決して終わらない。これが横山作品の魅力である。この作品は横山秀夫の処女作であるが、後に書かれた「半落ち」「顔」以上の傑作だと感じた。
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「4TEEN」石田衣良

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
第129回直木賞受賞作品。
太って大きなダイ、小柄でメガネで賢いジュン、ウェルナー症という病気を抱えたナオト、そして読書が趣味の主人公テツロー。東京湾に浮かぶ島。月島を舞台に14歳の中学生4人の青春を描く。
友情、恋、性、暴力、病気、死。彼らの生活の中で多くの出来事が展開する。そんな4人の前で起こるバリエーションに豊かさに、若干作られたストーリーという面を強く感じないでもない。それでも自分が14歳だった頃、何をして楽しんでいたかをつい考えてしまう物語であった。時代は違えど、目の前で起こる出来事、興味の対象に対してストレートに感情を表現する彼らの姿に、読者は昔の自分との共通点など、忘れていたものをいろいろ思い出すことだろう。


ウェルナー症候群
20世紀初頭に、ドイツ人の眼科医オットー・ウェルナーによりアルプスの谷間に住む4人兄弟の患者が初めて報告されたことから、この名前がつけられた。 一般の人より数倍のスピードで年をとる病気「早期老化症」の一つで、20歳頃から白髪や皮膚の皺などの老化の特徴が現れ始め、糖尿病,癌などで40歳あまりで死亡してしまう。
 また、ウェルナー症候群は日本人に極めて多い早期老化症である。この症状を長年にわたって診断してきた東京都立大塚病院の後藤眞博士らによると、ウェルナー症候群の臨床報告数は世界でおよそ1200例。そのうち日本からのものが800例を超えて群を抜いている。

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「誘拐の果実」真保裕一

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
都内で大病院の孫娘、17歳の辻倉恵美(つじくらえみ)が誘拐された。犯人の要求は入院患者、永淵孝治(ながぶちたかはる)という患者の命である。一方、神奈川県内では書店の息子で19歳の工藤巧(くどうたくみ)が誘拐された。こちらの犯人の要求は七千万円分の株券である。
別の場所で起こった二つの誘拐事件が、それに取り組む刑事たちの努力の末に次第に共通点が見えてくる。
物語全体としては、誘拐を起こした犯人たちの意図や家庭環境が複雑で感情移入できない箇所も多い。それでも「自分を許せない」というような、今では多くの人が忘れかけている純粋な気持ちを思い出させてくれる話ではある。作者の多くのアイデアが詰まった作品であるというのは感じるが、それが効果的に物語りに取り入れられたとは言いがたく、一般的な刑事物語の範囲を出るものではないと感じた。
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「千里眼とニュアージュ」松岡圭祐

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
史上最大のIT企業が設置した”48番目の都道府県”萩原県。そこはニートと呼ばれる無職の人々や失業者たちが、生活費も支給されながら暮らす最先端の福祉都市である。
ところが住民たちは悪夢にうなされて臨床心理士への相談を希望する。そんな舞台の上で、「蒼い瞳とニュアージュ」の主人公であり、萩原県で生活する一ノ瀬恵梨香(いちのせえりか)と、千里眼シリーズの主人公であり、「千里眼 トランス・オブ・ウォー」の話の後にイラクから帰国したばかりの岬美由紀(みさきみゆき)の人生が重なるという、松岡作品ファンにとっては待ちに待った作品だったのではないだろうか。
物語は、主人公クラスの二人が活躍するという内容ではなく、どちらかというと主役の座は美由紀(みゆき)に譲り、恵梨香(えりか)は自分の生き方に迷い、時に投げやりな姿勢が印象に残る。
美由紀(みゆき)は相変わらず、読者の誰もが憧れるような行動力と聡明さを併せ持ちながらも完璧な女性であり続けるわけではなく、誰もが味わいそうな悩みや葛藤を見せるところがまた読者のヒロインであり続ける要素なのであろう。

イラクで過ごした日々は、あまりにもわたしの視野を大きくしすぎた。たとえ相談者でなくとも、目の前にいる人に苦痛を与えておいてカウンセラーといえるのだろうか。多数が少数に優先するという考えは、自衛隊を辞したときに捨てたはずなのに。

物語全体としては、美由紀(みゆき)と恵梨香(えりか)が出会うこと意外は今までの松岡作品と比べて目新しいことも、感動する場面もないように思えた。ニッポン放送株買収問題で脚光を浴びたライブドア、2000年に発覚した藤村真一氏の遺跡捏造事件など、社会の出来事を上手く素材として物語に取り入れようとするあまり、内容が薄くなってしまったように感じる。次回作品に期待する。


モノマニアック
幼少の頃の偏執的な性格を残し、他人を所有物で判断する傾向のある人格のこと

【Amazon.co.jp】「千里眼とニュアージュ(上)」「千里眼とニュアージュ(下)」