「四日間の奇蹟」浅倉卓弥

オススメ度 ★★★★☆ 4/5

第1回「このミステリーがすごい!」大賞金賞受賞作品。
指を失ったピアニスト如月敬輔と障害を持った少女、千織。二人に起こった奇蹟の物語である。正直このテの奇跡の話は良く有る。「このテ」というのがどんなテだかというのは、ネタバレになってしまうのでここで書くのは避けることにする。そんなよく使われる奇跡であるにも関わらず、この本は描写が非常にリアルで、こんな奇跡が起こってもおかしくないのではないかと思わせてくれる。つい「実際にどこかで起こったノンフィクションなのかな?」と思ってしまったぐらいである。
この本の魅力はそんなストーリーだけでなく、要所要所に読み直したくなる文章や言葉がある、読み終わった時にはページのスミがたくさん折れていた。
「心というのは肉体を離れても存在できるものなのか」
「人間だけが親子でもない別の個体のために命を投げだせる特別な存在なのではないか」
読んだあとにいろんな問いかけを自分に向けてみたくなる。
【Amazon.co.jp】「四日間の奇蹟」

「変身」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
脳を入れ替えることによって、別の体を手に入れる。そんな話はよくある話で、この「変身」もそのテの話かと思っていた。ところが実際には、事故で欠損した脳の一部に、別の人の脳を移植したことによって、少しづつ性格が変わってくるという話である。
この物語のテーマはというとやはり、脳がただの細胞の変化したもので他の臓器と同じものなのか、それとも脳は特別な存在なのか、ということである。この「変身」の中では、主人公が、ドナーの性格に少しづつ変わって行くことから、やはり「脳は特別な存在」というふうに位置付けているのだろう。
僕もやはり、「脳は特別な存在」と思いたい。前者の意見であれば、「死ぬ」ということは、機械の「電源が切れる」となんら変わらなくなってしまう。僕にはその考えは非常に受け入れにくいものなのだ。僕にとって「死ぬ」とは、脳に宿っている特別ななにか(おそらく「霊魂」と言われるもの)が体の外にでることを言うのである。だから僕は幽霊を信じるし、死後の世界を信じるのだ。
ちなみに脳のはたらきについてもう少し掘り下げた話を読みたい方は瀬名秀明の「BrainValley」なんてオススメです。
【Amazon.co.jp】「変身」

「ナイフ」重松清

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
イジメをネタにした短編集である。イジメの当人。イジメの被害者の父親など、いろいろな視点の物語が集まっている。イジメを受ける当人よりも、周囲の人間の反応の描き方がリアルである。周囲の人はみんな、助けが必要だと感じ、それをすることでさらにイジメを増長するのではないか。と何もできない自分に怒りを葛藤するのである。
イジメという問題は、僕にはもう縁がない。そう思っていたが、自分の息子や娘がイジメにあったらどうするか?たぶん何もしないだろう。それが一番いいと思うから、しかしそれでいいのだろうか。残念ながらこの本の中にその答えはない。
【Amazon.co.jp】「ナイフ」

「エイジ」重松清

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5

第12回山本周五郎賞受賞作品。
昨日まで普通にクラスメイトとして過ごしていた一人が、通り魔だった。主人公のエイジは自分とその友人との間になんのちがいがあるのか考え、悩む。
僕自身がこの本のエイジに近いのか、この本の作者に近いのかはわからないけれど、あまりにもドラマチックに描かれる学性生活に違和感があることは否めない。「キレる」という言葉がたくさん出てくるが、少なくとも僕が学生のときにはそんなに人は簡単に「キレ」たりはしなかった。今の大人が考える中学生のイメージはこんなものなのか・・・それとも実際今の中学生はこうなのか?いや、やはり決してそんなことはないだろう、そういう人がいるのも事実なのかも知れないが、一部の話題性のある中学生を取り上げて、「今の中学生はこんなやつらだ」そう語るのはやめるべきだ。
【Amazon.co.jp】「エイジ」

「むかし僕が死んだ家」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
本にもいろんなタイプがあって、感動する本、悲しい本、笑える本などである。この本を「どんな本か?」と聞かれたら「作者のセンスを感じる本」とでも答えるだろうか。この設定、ストーリーそして、この読ませ方を思い付く作者のセンスがすごいのである。
小学校の入学式以前の記憶のない女性と、その友人がてがかりがあるであろう一軒の家を訪れ、その家にあるものを調べ行く内に徐々に真実が明らかになっていくという話である。要所要所にたくさんの伏線がしいてあるので、これから読む人は油断しないで読んでいただきたい。
ストーリーを楽しむだけで特にこの本から得た知識や刺激はほどんどなかったが、相変わらず東野圭吾作品らしくは、複雑なことを考えずに一気に読める。青春18きっぷの鈍行旅行の最中に読んだのだが、そんなシチュエーションにぴったりだった。
【Amazon.co.jp】「むかし僕が死んだ家」