「砦なき者」野沢尚

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
1994年、松本サリン事件のとき河野義行(こうのよしゆき)さんが容疑者として扱われたことがあった。テレビでニュースを見ていた僕は「こいつが犯人だろう」みたいに思っていた記憶がある。僕は、履歴書の「長所」の欄に「周囲には流されない性格である」と書くことが多い。それでもメディアの報道には知らず知らずのうちに流されているのだと思う。なぜなら情報化社会の現代において、インターネット、新聞、テレビを通じた情報を得ないでは生活できないからだ。
「砦なき者」ではニュース番組「ナイン・トゥ・テン」のディレクターの赤松を主人公としている。「テレビはこんなこともできてしまうのか」そう思わせる。個人的には物語の序章に当たる、第一章が印象的である。ニュースは真実を報道しなければならないのか、正義のためには偽りの報道をしても許されるのか、そんな疑問が生まれてくる。前作「破線のマリス」の続編に当たるが、もちろん前作を読んでいなくても99%この作品を楽しむことができる。
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「蒲生邸事件」宮部みゆき

オススメ度 ★★★★★ 5/5

第18回日本SF大賞受賞作品。
孝史(たかし)は偶然出会った男によって昭和11年の東京に連れて行かれ、その時代で、その時代を必死に生きている人々と接する。

俺はどうして今ここで拳を振り、群集に向かって叫ばないんだ。このままじゃいけないと。僕は未来を知っていると。引き返せ。今ならまだ間に合うかも知れない。みんなで引き返そうと。

北朝鮮の国民の映像がテレビで良く流される。日本の人間から見ると明らかにおかしい。金正日の何を信じているのか・・。そして、その先に明るい未来がないことも僕らにはわかる。それでも僕らには何もできない、彼等になにを助言しようと彼等は信じようとしない。生まれた時から彼等はそういう世界にいるからだ。戦時中の日本についても同じことが言える。今の時代から見ると明らかにおかしい。「大和魂」なんて言葉を理由に、銃弾の中に何度も突っ込んで行ったと言う。僕がその時代のその場所に行くことが出来たら、彼等をとめることができるだろうか。広島、長崎の原爆をとめることができるだろうか。未来がわかっていても、一人の力なんて無力なのかも知れない。

「なにか面白い本ない?」と人に聞かれた時、僕がまっ先に挙げる本のうちの一冊である。
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「最悪」奥田英朗

オススメ度 ★★★★☆ 4/5
最近、奥田英朗の本がおもしろい。「邪魔」につづいてこの本を手にとった。
自分は100万の札束を近くで見たことはない。別に貧しい暮らしをしているわけではないが、それでも10万もの現金が財布の中に入っていると気になって仕方がない。そういえば銀行に勤める友人がいつかこんなことを言っていた。仕事中に200万足りなかったのでみんなで探したらゴミ箱の中に2つ札束が落ちていた・・と。銀行に勤める人にとっては100万の札束など100万の価値はない。本屋さんが扱う本と、八百屋が扱うキャベツと大して変わらないのだ。
そう、社会には何千万のお金を右から左へ動かす仕事がある一方で、10万のお金を工面するのに苦労している人もいる。そんなお金に対する間隔の違いが、人と人との間に誤解や嫉妬やトラブルを生むことになるのだ。
この「最悪」では、町工場を経営している川谷。チンピラとして生活している和也。銀行に勤めるみどり。まったく違う境遇で生活している3人はそれぞれ人間関係やお金に悩みつつ生き抜こうとする。そしてあるとき3人の人生は絡みあう。人生落ちていくってのはこういうことなのか・・川谷と和也の境遇は他人事のように傍観していられないリアルさがある。これこそ最悪である。
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「すべてがFになる」森博嗣

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
森博嗣の本を始めて手にとった。密室で起こった殺人事件の謎が少しづつ明らかになって行くというストーリーはある意味ありがちともいえるが、その中で数学的な考えがたくさん出てくる。文系の人にはどのように受け取られるかわからないが、好きな人は好きな本だろう。主人公である犀川先生の考え方にときおりうなずかされることがある。

「夜の果てまで」盛田隆二

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
人を好きになることがある。しかし見栄やプライドが邪魔してなかなか真直ぐに思いを伝えられない。卒業式などに告白する人が多いのは人間のそういう面を良く表していると言える。
「夜の果てまで」の主人公である俊介も、今までの人生で積み上げて来たモノを捨てるべきか、それとも捨てないでなんとかならないか、そう何度も葛藤しながら好きな女性との愛を貫こうとする。良くあるロマンチックな恋愛小説などではまったくない。すべてを捨てて駆け落ちした以上、その先の生活をするためには汚い生き方もしなければならない。現代において「駆け落ち」というものを実行するにあたって、どのような障害があるかがリアルに表現されている。
それても僕を満足させなかったのは、作者の伝えたいテーマを感じることができなかったからかもしれない。「どんな障害があっても愛を貫こう・・」なんてテーマが言いたかったわけでは決してないはずだ。
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