「ふちなしのかがみ」辻村深月

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
5つの少し不思議で少し怖い物語。

個人的に好きなのは最初の「踊り場の花子」。どんな学校にでもある七不思議。それは「七不思議」と呼ばれてはいるけれど実際には七つ誰も言えなかったり、人によって微妙に異なるように覚えていたりする。そもそも七不思議は誰が言い始めたのか、実際に起こった出来事に由来しているのか。そんな疑問をうまく物語に仕上げている。

また、2話目の「ブランコをこぐ足」で生徒たちがやったとされる「キューピッド様」もなんか懐かしさを感じさせる。

ややわかりにくい物語もあるが、「学校の怪談」的な程よい怖さ、程よい不気味さが夏に向かうこの時期にマッチしている気がする。残念なのはあまり辻村深月らしい鋭い描写がなかった点だろうか。

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masato (2012年5月 6日 08:33) | コメント(0)

「V.T.R.」辻村深月

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
マーダーライセンス。つまり人を殺すことを許された男、ティーの物語。恋人であり同じくマーダーライセンスを持つR(アール)の行方を探して情報を集め始める。

最近、辻村深月(つじむらみづき)作品を読み漁っているのだが、本作品はやや雰囲気が異なる。というのも辻村作品でありながらも、著者チヨダコーキのデビュー作品という設定なのだ。チヨダコーキというのは、辻村作品の「スロウハイツの神さま」で登場するカリスマ作家である。その書かれた著作が青少年に影響を与えて大きな殺人事件が起きる、という設定だったと思うが、その作品が、本作品なのかどうかは定かではない。

したがって、残念ながら他の辻村作品に共通した、羨望と嫉妬など複雑な感情の入り交じった人々の心の描写は全くといっていいほどないのある。物語の展開がゆっくりなため、途中ややストレスを感じたのだが、終わってみると、「悪くない」と思ってしまった。続編かもしくは僕自身が気づかなかった背景があってもおかしくない。

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masato (2012年4月22日 17:59) | コメント(0)

「ブラバン」津原泰水

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
友人の結婚式の演奏のために高校時代の吹奏楽部を再結成することになった。25年の時を経て再びあつまる人々の物語。

コントラバスを担当していた他平等(たひらひとし)によって物語は語られ、25年前の高校生活の様子と、現代のメンバーを集める様子が描かれる。残念ながら少し時代のずれている僕にはあまり共感できなかったのだが80年代の音楽シーンの変遷をしっかり描いているようで、その時代に同じように音楽に青春をかけた読者にとっては響くないようになっているのではないだろうか。

希望に満ちた10代と希望の薄れた25年後、幸せをつかんだものとそうでないもの。25年という時間によって、人生の暗と明を同時に表現しようとしているようにも感じられる。

人類史上一人でもいるだろうか。まともな知性に恵まれながら、十代の夢はすべて叶ったと高笑いできる大人はいるだろうか。十代の自分を振り返る大人の視線は手厳しく、今の自分を見つめる十代の頃の視線は残酷だ。

非常に登場人物が多く、語り手が25年前と現在の状況を交互に織り交ぜて語るためになかなか時代の区別がつきにくく非常に読みずらい。爽快な青春物語を期待しただけに、なかなか伝わってこない物語に結構ストレスを感じてしまった。

デニス・ブレイン
イギリスのフレンチ・ホルン奏者である。死後の今に至るも世界中で最も卓越したホルン奏者のひとりとして知られる。(Wikipedia「デニス・ブレイン」

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masato (2012年4月16日 03:12) | コメント(0)

「哲学のすすめ」岩崎武雄

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
そもそも「哲学」という分野にあまり今まで目を向けていなかった。と突然思い立って手に取った。本書はまさにそんな「哲学って何?」というような人向けの内容で、著者は哲学の必要性を訴え続ける。

世の中にはどうしても「哲学か科学か」というように、二者択一を迫るような風潮があるが、著者自身も決して科学を否定しているわけではなく、例えば、何か目的があって、それを達成する手段が科学であり、何を目的とするか、が哲学であると語る。つまり哲学とは「価値観」なのである。

「哲学」と言うと、少し距離を置いてしまう人も「価値観」と聞くと、それは誰しもが持っているもの、として身近に感じられるのではないだろうか。

なかなか回りくどく複雑な説明が多く、なかなか理解しやすい本ではなかったが、興味深い話もいくつか拾うことができた。もう少しコンパクトにして、重要な部分をわかりやすく書くこともできたのではないかと思える内容。

【楽天ブックス】「哲学のすすめ」

masato (2012年2月21日 01:17) | コメント(0)

「ダークゾーン」貴志祐介

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
目が覚めるとそこは不思議な世界。現実の世界では将棋のプロを目指していた塚田裕史(つかだひろし)は、その世界で、18体のそれぞれの能力を持った生き物を動かして、敵である青軍と七番勝負をすることとなる。そこは夢なのか仮想空間なのか。

なんとも突飛な舞台設定である。実際著者である貴志祐介は「クリムゾンの迷宮」でも人間同士で生き残りをかけたゲームのような物語を描いているが、本作品では塚田(つかだ)含む登場人物たちは、なぜその場所にいて、なぜ戦うことになったかがわからなく、その点が物語のカギなのだと推測できる。

さて、理由もわからず塚田(つかだ)は現実世界で知り合いだった人間を駒として青軍と戦うのだが、その過程で、将棋や囲碁、チェスなど伝統的なゲームについて言及される点が興味深い。またその舞台となっている場所が昨今有名になった長崎の軍艦島をモチーフとしている点も個人的には好奇心を刺激してくれた。むしろそこまで調べ上げているなら将棋や囲碁の純粋な勝負の世界を描いたほうが面白い物語になったのではないかと感じた。

感想としてはやはりこの非現実すぎる物語をすんなり楽しむのは誰にとってもなかなか難しいのではないかと思う。とはいえこのような物語を世に出せるのは著者の過去の実績があるからゆえなのだろう。普通の人が同じものを書いてもまず出版社は却下するに違いない。そういう意味では現代アート的感覚で触れてみるのもいいかもしれない。

【楽天ブックス】「ダークゾーン」

masato (2011年11月26日 01:13) | コメント(0)

「自爆する若者たち 人口学が警告する驚愕の未来」グナル・ハインゾーン

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
社会・経済学者である著者は、世界で発生するテロの原因として、「ユース・バルジ」というものに着目した。

「ユース・バルジ」とは「過剰なまでに多い若者世代」と言い換えることもできる。僕らが扮装や戦争の原因としてあげるとしたら何だろう。おそらく「宗教問題」や「貧困」を挙げるのではないだろうか。しかし、上でも書いたように、本書の著者の視点はやや異なる。若い男性の比率が多くなりすぎると彼らは自らの有り余ったエネルギーの矛先を求めそれがやがて内戦や虐殺につながるのだという。

ある意味「貧困」などより非常に納得のできる考え方である。著者はその「ユース・バルジ」がいかに過去紛争や内戦に影響を与え、また今後どのようなことに警戒しなければならないかを語る。面白いのは例えば、出生率が1の先進国と出生率が6のイスラムの国が戦争をした場合の話。イスラムの国の戦死者は多くの場合、その家族の次男や三男であるのに対して、先進国の場合その家族の長男である場合が多い。そうなると当然一家の大黒柱を失った親によって、先進国では戦争に対する反発も高まる、というもの。

今までこんな視点で考えたことがなかっただけに新鮮であった。残念ながらそんな今後も続く第三世界の「ユース・バルジ」に対してどのように対応すべきか、というようなことは書かれていない。残念ながら将来を悲観しているだけである。個人的には、そんな若者がエネルギーを平和的に消費する手段として「スポーツ」という答えもあるような気がするが、本書はそのようなことには触れていない。それでも全体的に非常に面白いと思える考え方だった。

残念なのは翻訳があまりにも酷いということ。関係代名詞を無理やり訳したのか4行にもわたる文章が頻出し、3,4回読み直さないと意味の取れない文章が多々あり、非常に読みにくい。英語が読める人には迷うことなく原書で読むことをお勧めする。

【楽天ブックス】「自爆する若者たち 人口学が警告する驚愕の未来」

masato (2011年9月26日 23:58) | コメント(0)

「Affinity」Sarah Waters

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
2001年このミステリーがすごい!海外編第1位作品。

引きこもりだったMargarettは人の勧めで、刑務所を訪れて囚人の女性たちと話をするようになる。そこで出会った霊媒師の女性Selina。会話を重ねるにつれて2人は惹かれ合っていく。

すでに成人していた、兄弟が結婚して巣立っていく中、働くこともなく引きこもり生活を続けているため居場所を見つけることができない。そんなMargarettが囚人たちの生き方に自分を重ねあわせていく。刑務所で彼女が体験したことを家に帰ってきて日記に書く、という形態をとっているため、ひたすらMargarettの一人称で進んでいき、その心のうちが描かれる。そこが本作品の個性であり魅力である。

同時に、Selinaの視点に立って2年遡った状態からも物語は描かれる。一体どんな状況で彼女は罪を犯したのか。そして、その2年前のSelinaの周囲の出来事がどのようにして今の刑務所へと結びついていくのか、と想像しながら読み進めていくことになるだろう。

「ミステリー」というカテゴリに本書を分類することにまったく違和感がないが、どうも今ひとつ何か期待していたレベルには達していない気がする。

masato (2011年8月21日 22:21)

「迷宮」清水義範

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
記憶を失った「私」は治療と称して、一人の男と会い、ひとつの犯罪に関する記事を読ませられる。その犯罪とは、ある猟奇殺人事件だった。

読み始めてすぐに、おそらくエンディングには大きなどんでん返しが待ってるだろうと推測できる。明かされない男と「私」の正体。きっとこの2人の招待が鍵なのだろう、と推測できる。

そして「私」は新聞記事や週刊誌の事件に関する記事を読ませられる。多くの読者と同じように僕自身もその結末として考ええられるあらゆる想像をしながら読み進めた...。

さて、残念ながら結末は納得のいくものではなかった。というよりも僕には理解の範囲を超えていた。例えば有名な乾くるみの「イニシエーション・ラブ」のように、ほかの情報を整理しないと理解できないものかと思い、検索して調べたりもしたが、1回読んだだけでは理解のできるものではなかった。

解説できる人がいるならぜひ解説して欲しいところだ。

【楽天ブックス】「迷宮」

masato (2011年8月12日 00:45)

「The Gunslinger」Stephen King

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
黒衣の男は砂漠を逃げていく。ガンマンは追った。そんな冒頭で始まる物語。Stephen Kingの「The Dark Tower」シリーズの第1弾である。

なぜガンマンが黒衣の男を追い続けているのか、彼らは過去にどんな因縁を抱えているのか。その説明は一切描かれない。ただガンマンは男を追い、立ち寄った町で男について尋ね歩く。男はなぜ蘇ったのか。19という数字は何を意味するのか。

自分の英語力が未熟なせいかと思うほど意味の繋がらない回想シーン。いずれもおそらくこの後のシリーズの続編でその細かい物語の断片が繋がっていくのだろうと思われる。本作品だけを評価すると、残念ながら面白いとはとても言えないが、「The Dark Tower」というシリーズを読む上で欠かせない作品として我慢して読むべきなのだろう。

masato (2011年7月28日 00:09)

「野村の「眼」」野村克也

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
弱小チームだったヤクルトスワローズにID野球を浸透させ、3度の日本一に導いた野村克也。その野球に対する考え方を語る。

「ID野球」「野村再生工場」。このような単語は野球に詳しくない人間でも何度か聞いたことがあるだろう。こういう言葉が浸透したのは、おそらく野村の監督としての振る舞いが、ほかの監督とは違っていたからだろう。

本書では、野村克也がプロになってレギュラーを掴むまでの過程。そして中盤以降は、ヤクルト、阪神、楽天での監督としての目線で、選手や試合、戦術について語っている。

残念ながらその内容は、野球以外のものに応用できるとは言いがたく、野球ファンのための内容と言える。すでに70歳を超えている著者に対して求めるのは酷なのかもしれないが、その語り口調からは謙虚さよりも傲慢さが感じられる点が残念である。

【楽天ブックス】「野村の「眼」」

masato (2011年7月27日 23:49)

「錯覚」仙川環

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
結婚直前に失明した菜穂子(なほこ)は人口眼の埋め込みの手術をする。わずかな視力を取り戻した菜穂子(なほこ)の目の前で事件が起きる。

物語の核となるのは、失明と、人口がんによるわずかな視力の間にある人生に及ぶを違いの大きさによって、悩む菜穂子(なほこ)の思いだろう。当事者の菜穂子(なほこ)だけでなく、むしろ婚約者の功(いさお)の反応のほうが興味深い。「好き」という気持ちだけでなく、今後訪れるであろう困難なども含めて、現実的に考えて決断しようとする人間がいる一方、眼が見えるか見えないかで態度を変えるのはおかしい、と主張する人間もいる。

本書はむしろ事件による展開よりも、そんな人々の葛藤のほうが面白く思えた。とはいえ、全体的には事件に焦点をあてているためやや焦点の定まらない物語のように感じた。

【楽天ブックス】「錯覚」

masato (2011年5月23日 00:26)

「レディ・ジョーカー」高村薫

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
競馬仲間として知り合った男たち5人はある日、企業を脅して大金を得ることを思いつく。お金の使い道も、目的もなく。

久しぶりの高村薫作品である。競馬場通いの男たちが、明確な目的もなく企画したビール会社相手の誘拐恐喝事件。面白いのは、犯人たちの誰一人として、お金が必要な切迫した理由があったわけでもなく、ただ退屈な毎日とすでにこの先にもなんの期待も持てない自分の人生を悟った上で「なんとなく」と犯罪に走ってしまったことだろう。

一方で誘拐されたビール会社社長の城山(しろやま)の、社会における企業の立場、社内における自分の立場。企業の利益を優先するがゆえに警察に嘘の証言をしなければならない葛藤や罪の意識なども見所である。

そして、「マークスの山」や「照柿」など、高村作品にはおなじみの刑事。合田刑事も本作品で重要な役どころを演じている。

さて、これは高村作品においてはどの作品にも共通した世界観と言えるかもしれないが、思い通りにならない世の中、そして、それでも生きていかなければならないむなしさ。そんな空気が作品全体に漂っている。犯人の追跡劇や、優れた刑事の推理劇に焦点をあてたよくある警察物語とは大きく一線を画しているといえるだろう。

一方で、決してスピーディではない本作品の展開は読者によって好みの分かれるところである。僕自身も、この展開で3冊ものページ数を費やすのはやや受け入れがたいものがあった。

【楽天ブックス】「レディ・ジョーカー(上)」「レディ・ジョーカー(中)」「レディ・ジョーカー(下)」

masato (2011年4月17日 21:20)

「クリエイター・スピリットとは何か?」杉山知之

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
デジタルハリウッド学長の杉山知之がクリエイター・スピリットについて語る。

どちらかというとこれからクリエイターを目指そうという若い人に向けられた内容ではあるが、すでに社会に出て10年以上経っている僕にとってもところどころ心に残る内容はある。

特に著者が本書内でたびたび繰り返しているのは、日本という国にすんでいるということが、どれほどクリエイターにとって恵まれているか、ということである。

技術的なことももちろんあるが、それよりも特定の宗教を持たないからこそ、多くの国の人が縛られる先入観を持たないために自由に発想することができる、というのが印象的だった。

日本はずっとディズニーにあこがれてきたわけだけれど、気がついたらディズニーを追い越しちゃっているのだ。それに気づいていないのは日本人だけだったりするのだが......。

1時間もかからず読めてしまうないようなだけに値段ほどの価値があるかどうかは疑問であるが、軽い気持ちで手にとって見るのも悪くないだろう。クリエイターの視点で日本という国を外から見ることができるのは新鮮である。

【楽天ブックス】「クリエイター・スピリットとは何か?」

masato (2011年4月14日 23:32)

「Bone by bone」Carrol O'Connel

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
20年前に行方不明になった弟Josh。兄Orenは軍隊を辞めて、生まれ育った街に戻ってくる。

舞台となるのはアメリカの田舎町。
みんな街のすべてのひとの、仕事や人間関係や趣味まで知り尽くしているような小さい街。そんな限られた人間関係のなかで、20年前に失踪した少年の事件がふたたび街の人々を動かし始める。

前に読んだ同じ著者の作品「Judas Child」と非常に視点が似ているように思う。前作でもそうだったのだが、小さい町ゆえの人々の人間関係が物語の根底となっている。本作品では、その緊密さは、緊密さはゆえの暖かい親密さというようなポジティブな方向ではなく、緊密ゆえにすべてを知っていて、そんななかで人は人の悪いところを見ようとする余りに、生きるための窮屈さとして、ネガティブな描かれ方をしているようだ。

物語は行方不明になっているOrenの弟の骨と思われるものがときどきOrenの家のポーチに置かれていることから動き出す。真実が次第に明らかになる過程でいくつか印象的な要素が取り入れられている。たとえば、行方不明になったJoshが写真を撮ることに関しては類稀な才能を持っていたこと、一人の女性が書き続けているバードウォッチングのログブック、街の人は誰れでも一度は参加してしたことがあると言われる「死者を呼ぶ会」などである。そのログブックにはある日を境に実在する鳥は一切描かれなくなり町の人の人間性を暗示するスタイルへと変わっていた。そして、「死者を呼ぶ会」では、参加者は行方不明のJoshに毎回呼びかける話をする。これらの要素も物語を魅力的なものにしていると言えるだろう。

事件の真実よりも、その過程で描かれる、人間関係や人々の苦悩など心情に焦点がおかれている様に感じた。個人的にはもう少しスピード感が欲しいところである。

masato (2011年3月12日 17:27)

「運命の人」山崎豊子

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
新聞記者の弓成亮太(ゆみなりりょうた)は昭和46年沖縄返還交渉の取材中に日米間の密約に気づく...。

以前より何人かから薦められていながらも機会がなかったため今回が初山崎豊子作品となった。物語冒頭で舞台となっているのは昭和46年であり、その題材は沖縄返還交渉という、僕にとっては生まれる前の出来事である。正直、あまり深く考えたことがなかったのだが、冷静に考えてみると、間違いなく沖縄返還というのは歴史的事実だったのだろう。そんな大きな出来事にいままでほとんど関心を持っていなかったことに少し驚かされた。

さて、物語は弓成亮太(ゆみなりりょうた)という、正義感あふれる敏腕新聞記者を中心に進む。沖縄返還交渉に関わるひとつのスクープが、やがて、「知る権利とは?」「外交とは?」という大きな問いかけになり、物語中で描かれる裁判のシーンを通じて、日常よく耳にする言葉の意味まで考えさせられるだろう。

本書を読了後に沖縄返還について調べてみると、本書の内容はかなり事実に近いことが描かれているらしい。きっと年配の人にとっては常識とも言える事件なのかもしれない。教科書には載っていないほど新しく、しかし自分が生まれる以前というほどの古い、この期間に起こった出来事はもっとも無関心にすごしてきてしまったようで、もう少し関心を向けるべきなのだと感じた。

とはいえ、このような内容では仕方がないことなのか、若干登場人物が多すぎて、物語に入り込みにくく、お世辞にも読みやすいとは言えない。また、後半部分はむしろ物語のそれまでの本筋とは外れて沖縄の悲劇の歴史に焦点があたっているように感じ、作者の訴えたいことが不明瞭な印象を受けた。一つの物語としてみるのか、それとも読みやすい現代史として本書を見るのかで評価は変わってくるのかもしれない。

本作品が山崎豊子の他の作品、たとえば「沈まぬ太陽」「白い巨塔」と比較するとどの程度の出来なのかが気になるところである。

【楽天ブックス】「運命の人(一)」「運命の人(二)」「運命の人(三)」「運命の人(四)」

masato (2011年3月 5日 22:27)

「新世界より」貴志祐介

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第29回日本SF大賞受賞作品。1000年後の日本。そこはサイコキネシスを自在に操る超能力者たちの世界。厳しい規律によって秩序は保たれていた。

貴志祐介の久しぶりの作品は、上、中、下と三冊にわたる大作。物語は渡辺早紀(わたなべさき)が過去の悲しい記憶を振り返って書く手記という形をとっている。

最初はどこかのまったく現実と関係ない想像の世界を描いているようにも見えたが、次第にそれは、人類があるときを境に、超能力の存在を受け入れ、何人かがそれを自由に扱えるようになったがゆえに起こった混乱の後の世界であることが明らかになっていく。

サイコキネシスによって、つまり対象に一切触れたり、道具を使用することなく念じるだけで人を殺すことのできる人間の存在によって起こる混乱としては、なかなか納得できるものがある。

さて、物語はそんな世界のなかで自らの力をはぐくんでいく早紀(さき)とその友人たちを描いていく。その過程で、人間が住む場所の外には、多くの未知なる生物が潜んでいることがわかる。そして、鍵となるのは、人間同士が殺しう事をしないためにそれぞれの人間が心のなかに持つ攻撃抑制である。それゆえに、超能力を自在に操りながらも人間同士の殺し合いが起こることがない。そんな世界で生きている早紀(さき)が過去の歴史を知るにつれて、現代の核爆弾や殺人平気を知り、「古代人は狂っている」と感じるあたりには考えさせられるものがあるだろう。

やがて、物語は、ほかの生き物たちから「神」とあがめられる人間たちと、そんな「神」である人間の支配から逃れようとする動物たちの間の対立へと変わっていく。最終的に、何を訴えたいのかよくわからないが、なんにしても、不毛な殺し合いや逃走、追跡劇に非常に多くのページを費やしているため、全体のページ数に見合うだけの内容はないように個人的には感じたがほかの人はどう思うのだろう。

炭疽菌
炭疽(炭疽症)の原因になる細菌。病気の原因になることが証明された最初の細菌であり、また弱毒性の菌を用いる弱毒生菌ワクチンが初めて開発された、細菌学の歴史上で重要な位置付けにあたる細菌である。また第二次世界大戦以降、生物兵器として各国の軍事機関に研究され、2001年にはアメリカで同時多発テロ事件直後に生物兵器テロに利用された。(Wikipeida「炭疽菌」

久留子(くるす)
家紋。別名十字架紋。ポルトガル語で十字架のことをクルスと呼んだからことに由来する。(家紋の湊

テロメア
真核生物の染色体の末端部にある構造。染色体末端を保護する役目をもつ。(Wikipedia「テロメア」

【楽天ブックス】「新世界より(上)」「新世界より(中)」「新世界より(下)」

masato (2011年2月 7日 23:52)

「誘拐の誤差」戸梶圭太

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
10歳の礼乎(れお)は学校からの帰り道に近所の男に殺される。捜査を開始する警察と事故を隠そうとする犯人。事件の周囲の人々を描く。

新しいのは、殺された少年礼乎(れお)が魂となって浮遊し、自分の殺された事件を解決する様子を見ようとする、その目線で物語が展開する点だろう。多くの人の心の声が聞こえるから、物語の目線がいろんな関係者に移っているように感じられるが、実際は一貫して魂となった礼乎(れお)目線なのである。

内容はというと、悲しいほど自分勝手で醜い人間たちのオンパレード。犯人はもちろん、警察や被害者の家族たちや街の人たちまで。誰一人感心できる登場人物など出てこない。読んでいるうちに疲れてくるような内容である。最近、こういう人間の醜さだけを見せる物語が増えた気がするが気のせいだろうか。

ひょっとしたら最後に何か面白い展開が待っているかもしれない、と最後までがんばって読んだが残念ながら期待に沿うものは最後までなかった。ひらがなと擬音の多い文章のせいで、ページ数ほどに時間がかからないが、中身も濃いとはいえないだろう。

とはいえ、本作品を評価する人もいるらしいので、人によっては絶賛するようなものなのかもしれない。

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masato (2011年1月13日 23:12)

「ベルカ、吠えないのか?」古川日出男

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
太平洋戦争末期に太平洋の島に残された日本の軍用犬、北、正勇、勝と米軍のエクスポロージョン。4頭の犬たちはさまざまなかたちで子孫を作り、その血は、戦争の時代に翻弄され世界に広がっていく。

最初の4頭の子供たちはその類稀なる才能ゆえに、ある犬は犬橇でその才能を生かし、あるものは、先祖と同様に戦争でその才能を発揮する。

太平洋戦争から、冷戦の時代に入り、ベトナム戦争、アフガン戦争と20世紀に起こった戦争や紛争、そして、それだけではなく、米ソの宇宙開発など、歴史的な出来事とその背景を描きながら犬たちの動向を描いていく。むしろ20世紀の戦争史として読んだほうが期待に沿うかもしれない。

そして、軍用犬を戦力として重宝する国々によって、気がつけば数世代前には兄弟だった犬たちが敵と味方に分かれて戦っているのである。

考えてみれば人間の所在は、国籍や民族などしっかりと記録されているが、犬においてはそのようなものはなく、その犬の先祖がどこで生まれたか、とかその犬の従兄弟が今どこで何をしているか、など正確に把握することなどまず不可能なのだろう。そう考えると本作品が描く世界は、決して物語のための誇張とはいえないのかもしれない。

そういった意味では本作品は間違いなく斬新的な作品と言える。ただ、斬新的ゆえに読む人によって好みが分かれし、僕としても、もっと少ない数の犬に集中して描いてくれたほうがありがたく、犬も人間も誰一人共感できる形で描かれていないことによって、ずいぶん読みにくさを感じてしまった。

【楽天ブックス】「ベルカ、吠えないのか?」

masato (2010年12月19日 22:44)

「田村はまだか」朝倉かすみ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第30回吉川英治文学新人賞受賞作品。

クラス会の3次会でとあるバーになだれこんだ5人。彼らは同じく同級生だった田村(たむら)を待ちながら、思い出話、近況報告に花を咲かせる。

物語の中心となる5人は40歳。夢を追ったり、甘い恋をするには歳をとりすぎているが、人生をあきらめるには早すぎる。そんな人生の中だるみ的な位置を生きている。

そんな5人が酒を飲みながら交わす会話は、いずれも、ものすごく面白くもなければものすごく退屈でもない、ほどほどの話。そしてみんな純情でもなければ、悪人でもない。そんな中途半端な年齢を生きる彼らのなかから何か感じられるものがあるのかもしれない。面白いのは、この友人田村(たむら)を待っている、という設定だろう。なにかの折りに彼らはつぶやくのだ「田村はまだか」「田村遅すぎる」と。そうやって登場していないにも関わらず、なんども会話のなかで触れられていくうちに田村(たむら)がどこか伝説めいた響きをもってくるから不思議である。

ただ、残念ながら、末尾の解説で「若いひとにはぴんと来ないんじゃないかとすら思う。」と書かれているように、ちょっと僕にはこの作品のよさを掬い取ることができなかったようだ。(僕が「若いひと」かどうかは置いておいて)。

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masato (2010年12月 9日 01:02)

「キラークエスチョン 会話は「何を聞くか」で決まる」山田玲司

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
200人を超える「初対面対談」を繰り返してきた著者がその経験から、人との会話を盛り上げるために有効な質問とその理由をまとめている。

久しくこういう本は手にとっていなかったのだが、軽くさらっとなにか読みたいなと思って購入してしまった。数年前に読んだ本、確か「聞く技術」というようなタイトルだったと思うが、そこに書かれていたことと若干共通する部分もあり、本書でも、人は誰でも自分のことを話したがる生き物だから、会話では「話す」ことよりも「聞く」ことのほうが大切と書いてある。

実際自分もなるべく「話す」より「聞く」を実行しようと意識はしていて(実際にできているかは別問題)、その結果として、何度も会話をしたことがある人が自分の仕事さえも知らないなんてこともたまにあったりする。

そんな「聞く」ことの重要性を理解した上で、こんな質問が共通点のない人物同士でも会話を盛り上げる、というような20個ほどのキラークエスチョンはがまとめてある。

そこであげられているキラークエスチョンの詳細へはここでは触れないとして、結局大事なのは、相手へのリスペクト、そして、いかに相手を主人公にできるような質問をするかということなのだろう。そして印象的だったのが、自分の弱点を見せることで相手は話しやすくなる、という部分だろうか。次回から実行してみたいとこだ。

そんなふうに、いくつか考え方として面白い部分があるにはあったが、30分もしないで読めてしまう本書に660円とは・・・。気になった方には立ち読みをお勧めしめする。

【楽天ブックス】「キラークエスチョン 会話は「何を聞くか」で決まる」

masato (2010年11月23日 11:16)

「輝く夜」百田尚樹

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
クリスマスイブの女性たちの奇跡を描いた5つの物語。

注目の百田尚樹の新作ということでやや好みのテイストとは異なるにも関わらず「こういう物語はどんなふうに描くのだろう」という想いで手に取った。5編ともクリスマスイブに女性に起こった奇跡を描いている。

最初の1編、2編あたりは、こんな物語もたまにはいいな、などと思いながら読んでいたが、さすがに4編、5編とありえない偶然が続けば、感動よりもむしろ冷めてしまう。むしろ想ったのは、こんなありえない確率のできごとでも起きない限り恋愛は成立しないのだろうか、という疑問。

この物語で感動するには現実を知りすぎてしまったようだ。どちらかというえば中学生、高校生向けのラブストーリーという感じ。5編とも主人公の女性のこころがあまりにも美しすぎるのも現実感が乏しい、あまり百田尚樹に恋愛ものは期待できないかも。

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masato (2010年11月18日 23:27)

「沈底魚」曽根圭介

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第53回江戸川乱歩賞受賞作品。

中国のスパイが日本に潜んでいるという情報を得て、警視庁外事課は動き出す。

江戸川乱歩賞受賞作品ということで期待したのだが、残念ながら最近増えてきた公安警察小説のなかでも特に際立ったところはない。スパイものはどうしても2重スパイ、3重スパイ、騙し合いという展開になってしまって、その範囲内ではいくら裏をかこうとも読者の想像を超える面白さには繋がらないのだろう。もう少し何かスパイスがほしいところだ。

とはいえ、このような中国などを相手にしたスパイ物語を最近よく読むようになった気がする。つまりそれが現実のものとして受け入れ始めているからなのだろう。

本作品に限らずスパイ物語というのは登場人物の名前が多くなりすぎるうえ、おのおのの利害関係が複雑になりすぎるため、なかなか物語にしっかりと着いていきずらいのもよくあることで、いかにその多くの登場人物を個性を持って描けるかが、諜報活動を描く小説には求められるのではないだろうか。

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masato (2010年9月20日 20:54)

「霧のソレア」緒川怜

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
テロリストが仕掛けた時限爆弾によって成田空港に向かう289人の乗客を乗せた航空機が墜落の危機に瀕する。女性パイロットの高城玲子(たきれいこ)の手に乗客の命はゆだねられる。

トラブルに巻き込まれた航空機を生還させるという物語は決して少なくない。小説でも映画でも、その多くは、そこにいる人々の恐怖やそれを克服して協力し合う人間物語を描いており、本作品にもその要素は十分に入っているが、同時に、航空機に取り入れられている技術や、それに関わるスタッフの役割などに触れている点が新しい。

物語は墜落の危機に瀕した航空機だけでなく、機内に乗っている要注意人物の存在によって国家間の脅威にまで発展した展開になっていく。その過程で、過去の多くの航空機事故に触れている。内容としては、著者のデビュー作ということもあって、力のこもった作品に仕上がっている。

個人的な感想としては、航空機内のパイロットや一般乗客、そして爆弾を持ち込んだテロリスト、国の運命を担う各国政府。多くの視点があるのはいいと思うのだが、どれかをメインに扱って、はっきりと視点に優劣をつけたほうがよかったのではないだろうか。おそらく本作品でもメインは女性パイロット高城玲子(たきれいこ)など機体に穴の開いた状態で生還しようとする姿だろうが、テロリストから自衛隊など、すべてをその視点から頑張って描きすぎててしまって複雑になりすぎてしまった感がある。とはいえ、現在の問題点や過去の事件など多くの要素をまとめて一つの物語に仕上げるという姿勢は評価したい。今後の作品に対する。

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masato (2010年8月 1日 00:06)

「国境事変」誉田哲也

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
新宿で殺害された在日朝鮮人の吉男(よしお)。事件を担当する警視庁捜査一課は事件解決のために弟の英男(ひでお)を追求する。しかし英男(ひでお)は公安が長年かけて作った情報提供者であった。刑事と公安という同じ警察組織内の目的を異にする組織の思惑が交錯し始める。

公安嫌いの刑事東(あずま)と、公安でありながら、どこかその仕事に疑問を抱いて任務に就いている川尻(かわじり)。この2人の目線で物語は進む。印象的なのは、川尻(かわじり)の学生時代の経験や、在日朝鮮人であるがゆえに、普通の生活を送ることができない英男(ひでお)の過去やその経験から来る言葉だろう。

監視はときに楽しく、また悲しくもある。神のような気分になる場合もあれば、自己嫌悪で吐き気を催すこともある。
公安ってなんだ。警察ってなんだ。自分は本当に人間なのか。人命より優先して秘匿されるべき身分など、本当に存在するのか。

そして、物語はたびたび国境の島、対馬に向けられる。これほど重要な位置にありながらも、僕ら日本人がほとんど意識することのない島。その重要性を知るだろう。

いくつかの組織名称が登場するゆえに若干組織の利害関係がわかりにくく、スピード感にも欠ける部分があるが、それよりむしろ、すれ違いながらも少しずつ近づいていく、東(あずま)と川尻(かわじり)という二人の警察職員の緊張感が面白い。

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masato (2010年7月28日 01:23)

「残光」東直己

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
札幌で起こった立てこもり事件をニュースで知って、榊原健三(さかきばら)は再び札幌に行くことを決意する。

読み進めて感じたのは、どうやらこの作品は、なにか別の作品の続編であって、十分にこの作品の良さを堪能するためには、その作品から読むべきではなかったか、というもの。物語の過程で、過去の出来事についていろいろ補足的に記述はあるのだが、どうも話に着いて行っていないような感覚は最後まで感じていたように感じる。

全体的には、榊原健三(さかきばらけんぞう)が警察内部に存在する犯罪組織から子供を守るために奮闘する、という物語。典型的なハードボイルドという印象を受けたが、ラストシーンだけは、その経過と比較すると現代の若者の姿を特異な状況を通じて描いており、かなり斬新な印象を受けたが、話の流れからは、少々受け入れ難い感じも受けた。ぜひ他の読者の意見も聞いてみたいところだ。

僕にとって東直己作品の初挑戦ということで、日本推理作家協会賞受賞作品を手にとったのだが、引きつづきこの著者の作品を読みたい、と思わせるほどではなかった。

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masato (2010年7月 4日 09:02)

「六月六日生まれの天使」愛川晶

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
目を覚ますと隣に全裸の男性が寝ていた。男の名前どころか自分の名前も思い出せない。どうやら記憶を失ってしまったらしい。

そんな意外と物語ではよく使われる記憶喪失を題材にした作品。本作品が他の作品と違うのは、その主人公となる記憶を失った女性だけでなく、そこにいた男性も「前向性健忘」という記憶の障害を抱えている点だろう。

「前向性健忘」は「博士の愛した数式」で有名になった病気で、ある時期以降の記憶を蓄積できないというもの。本作品でも冬樹(ふゆき)という男性は小一時間ごとに新しい記憶をリセットしてしまうために、そのたびに目の前にいる女性の名前どころかそこにいる理由さえも忘れてしまう。

それが本作品の面白さであり、布石なのだが、記憶を失ったもの同士のちぐはぐなやりとりがやや不必要に長く、また、あまりにも使い古された(そのわりに現実ではあまり見ない)「記憶喪失」という題材にかなりのチープさを感じてしまう。

しだいに女性は自分の記憶を取り戻して、自分の持っている醜い過去と直面していくわけだが、物語はそれだけでは終わらない。帯に「必ずもう一度読みたくなります」というのは決して嘘ではないが、それは「面白いから」ではなく、「よくわからないから」であり、もう少しシンプルな構成にできなかったものか、という印象が強かった。

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masato (2010年6月20日 21:11)

「告白」湊かなえ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第6回本屋大賞受賞作品。
娘を生徒に殺された女性教師は、最後の日のホームルームである告白をする。自分の行ったことに苦悩する生徒。子供の行動に悩む親や兄弟。一つの事件を機に見えてくる人の心を描く。

映画がヒットしているそのまっただなかで読むことになってしまった。基本的に告白や日記という形で物語は進むため、ややスピード感に欠け、単調な印象を受けてしまう。

娘を殺された教師の告白から始まり、その殺人に関わった生徒二人の目線、その親の日記と続く。物語に必要とはいえ、中学生が日記に書くにはあまりにも長く、描写が上手すぎるという点は、残念ながら目を潰れる程度以上のものだった。
最後まで非難と復讐の物語。世の中必ずしも救いがあるわけではないので、必ずしも希望の見出せる作品である必要はないのだが、もう少し上手い描き方はなかったのだろうか、と感じてしまう。

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masato (2010年6月15日 22:54)

「漆黒の王子」初野晴

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
暴力団組員が連続して睡眠中に死亡する事件が連続して起こった。そこへ「ガネーシャ」と名乗る犯行声明が届く。一方、地下の暗闇では、記憶を失った女性が地下で暮らす数人のホームレスと出会う。

最近の注目の作家の一人、初野晴(はつのせい)の作品ということで迷わず手に取った。物語は、面子を保つために、ガネーシャという人間を見つけ出そうとする暴力団たちの様子と、地下でガネーシャと名乗った記憶をなくした女性が、そこに住むホームレスたちと徐々に心を通わせていく様子を同時に描いていく。

この2つの物語が同時期に起こっていることなのか、それともどちらかが過去でどちらかが現在なのか、など読み手にはわからない。ただ、ガネーシャという名前が共通するのみである。

そして、少しずつ人数が減っていく暴力団組員の中で、その幹部たちが過去に犯した大きな罪が少しずつ明らかになっていく。そして眠っている間に死んでいくという殺人の真相も。

地下で過ごすホームレスや、暴力団を扱っているという点でやや物語に入りにくいという印象は残念ながら最後まで拭えなかったが、初野晴(はつのせい)らしいというような独特の視点から物事を捉えた文章にもいくつか触れることができた。

死期を悟った野生動物は、じぶんの死体を必要とするもっとも適した場所、じぶんの命が継がれるであろう環境に、本能で移動していく...。

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masato (2010年5月30日 00:04)

「追伸」真保裕一

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ギリシアに滞在している山上悟と日本にいる奈美子の手紙のやりとりで構成される物語。本作品に手紙の内容以外の要素は一切ない。作者である真保裕一の一つの挑戦的な作品である。

2人の何往復にもわたる手紙のやりとりによって少しずつ2人の置かれた状況や、その家族、周囲の人との関係までもが明らかになっていく。きっと、小説を書いた経験のある人や、実際に小説家として生きている人にとってはそれなりにその技法に読み応えを感じるのだろう。しかし、ただ単に読者として普段物語を楽しんでいる僕は物足りなさを感じた。

とはいえ、携帯電話やメールやインスタントメッセンジャーなど、多くの気軽なコミュニケーション手段が日常の中に取り入れられている昨今において、手紙というものの存在意義のようなものを感じるきっかけにはなった。

便箋に向かって一語一語選んでいく言葉は思うがまま口にするより、たとえわずかながらでも時間を費やした文、相手の胸へと確実に響き、残っていくのでしょう。

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masato (2010年4月25日 22:06)

「戦場のニーナ」なかにし礼

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
戦場で瓦礫の中で生き残った一人の赤ん坊は、ロシア兵に助け出され、「ニーナ」と名づけられ、中国人として育てられることになった。

「戦場のニーナ」というタイトルがなんとも魅力的でついつい買ってしまった。戦争に人生を振り回されたという話だと、中国残留孤児や、真保裕一の「栄光無き凱旋」で描かれた、アメリカに住む日本人たちなどが僕の頭に思い浮かび、いずれの人生にもいろいろ考えさせられるものがある。

本作品もそういう刺激を期待していて、実際ニーナはロシアで自分の国籍をはっきり知らぬままその人生の大部分を過ごし、その間には多くの悲しい出来事が起こるのだが、物語中で展開する会話は残念ながら非常に現実感に乏しく、小学生の演劇のような表面的な台詞に終始している。その一方でなぜか恋人であるユダヤ人とのベッドシーンだけはやたらと長くしつこくて半分も読んだところで残りのページの多さに途方にくれてしまった。

巻末にある参考文献の数々や物語中に登場する多くの都市や歴史的建造物の多さに、著者が相応の下調べをしたことがわかるだけに、登場人物の心情描写や台詞のチープさが作品全体の質を下げてしまってこのような作品にしか仕上がらなかったことが本当に残念である。

ぜひ著者に真保裕一の「栄光無き凱旋」を読んで人の心の中に現れては消えていく複雑に入り混じった感情とその表現方法を知って欲しいと思った。

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masato (2010年3月28日 22:15)

「硝子のドレス」北川歩実

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
菅見英晴(すがみひではる)は突然行方をくらました恋人の実咲(みさき)を探して奔走する。一方、肥満に悩む千夏(ちなつ)はやせるためにダイエットコンテストに参加する。

「金のゆりかご」の巧妙に計算された物語とその過程を裏切らないラストが良かったので、同じく北川歩実の作品ということで手にとってみた。

物語中では千夏(ちなつ)だけでなく多くの痩せたい女性たちが描かれている。その多くが、家族や親類からは「見た目が大事なんじゃない」と諭されながらもそれを受け入れることができずに、「痩せれば私の人生は変わるはず」という考えに縛られながら生きている。

自分の外見が嫌いだから、外出することを控え、それによって運動ができずに、ストレスを発散するには家の中で食べるだけ、という悪循環にはまっている。そして外見に関するコンプレックスはその性格にも現れ、時に被害妄想的な行動をも起こす。

本作品の中でそんな悲劇の一部を見ることができるだろう。

細かいどんでん返しの数々は、「金のゆりかご」と共通するものがあるが、ダイエットを扱った物語ということで、女性でもなく、痩せたいなどと思ったこともない僕にとってはやや共感できかねるシーンが多くなかなか物語に入っていくことができなかった。この辺はひょっとしたら女性の方が理解しやすいのかもしれない。ぜひ女性の感想を聞いてみたいものだ

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masato (2010年2月28日 16:31)

「春を嫌いになった理由」誉田哲也

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
フリーターの秋川瑞希(あきかわみずき)はとある霊能力者の通訳を勤めることとなった。過去の苦い経験から霊能力を嫌悪しながらも、初日から男性の遺体を発見してしまう。

瑞希(みずき)がテレビスタッフと霊能力者の間で右往左往するエピソードと平行して、本作品中ではもう一つの物語が進んでいく。それは中国の田舎で育ちながらも、日本でお金を手にする夢を描く、中国人兄妹である。

個人的にはその中国人兄妹の日本に密入国するための過程や、日本に到着した後の現実と夢のギャップに打ちひしがれる姿などに、興味を覚えた。

そんな2つの物語が終盤どのように結びつくのか、読者はそんなことを考えながら読むことだろう。

さて、誉田哲也の作品といえば女性の主人公がいつも魅力的なのだが、本作品の秋川瑞希(あきかわみずき)にはやや個性の弱さを覚えた。霊能力という部分ですでに現実からやや離れているという点が、それぞれの登場人物の現実味を薄めている一因かもしれない。

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masato (2010年2月27日 23:43)

「イノセント・ゲリラの祝祭」海堂尊

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
田口公平(たぐちこうへい)は病院長の命により、厚生労働省で行われる会議へ出席することとなった。

残念ながら御世辞にも序盤は面白いとは言えない。多くが会話につきており、登場人物の名前や組織名の多さに、一つ一つ整理して読まないととても話についていけない。漠然と理解した範囲でまとめると、どうやら物語は先進国の中できわめて低い解剖率のせいで、多くの犯罪が見過ごされるであろうという日本の社会の懸念を解決する手段として、エーアイの導入を改革派が叫んでいるにもかかわらず、現在の地位を守るために保守派が難癖をつけて却下させようとしている、ということらしい。

ところが「イノセント・ゲリラ」こと、彦根信吾(ひこねしんご)の登場によって物語りは一気に面白くなる。過去の作品で「ロジカルモンスター」こと厚生労働省の役人、白鳥圭輔(しらとりけいすけ)が行ってきた、権力にしがみつく保守派の医者たちの屁理屈をことごとく論破していく姿。今回はそれを彦根信吾(ひこねしんご)が見せてくれる。必死で現状の破綻した制度を維持しようとする官僚たちを切り捨てていく姿はなんとも爽快である。

「国家システムに競争原理を働かせては、ゆがんで壊れてしまう」
「競争原理を行政制度に導入した時に壊れるのは、官僚が手にしている既得権益だけだ」

しかし、全体的に見るとなかなかお勧めできる作品ではない。日本の医療問題をいろいろ考えさせたいのはわかるが、やはりある程度面白さを全体的に意地しなければ、読者を引き込んで、その方向へ目を向けさせるのは難しいのではないだろうか。

そういう意味では前半は僕にとってはひたすら退屈な展開であり、後半部分の面白さを評価したとしても、及第点を与えられる内容ではない。

検案
医師が死体に対し、死因、死因の種類、死亡時刻、異状死との鑑別を総合的に判断することをいう。死体検案の結果、異状死でないと判断したら、医師は死体検案書を作成する。異状死の疑いがある場合は検視を行い、死因などが判断できない場合は解剖を行う。(Wikipedia「検案」

参考サイト
Wikipedia「監察医」

【楽天ブックス】「イノセント・ゲリラの祝祭(上)」「イノセント・ゲリラの祝祭(下)」

masato (2010年1月18日 23:15) | コメント(0)

「ツアー1989」中島京子

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
香港のツアーで一人の青年がいなくなった。同行していた人はみんなその青年のことをほとんど記憶していなかった。青年の思いを寄せていた人への手紙を託されたライターは自分でその青年を探そうとする。

不思議な雰囲気の物語。多くの人が海外旅行に出かける昨今であるが、人は「旅行」に何を求めているのか、そんな問いに対する今まで気付かなかった一つの答えを示してくれた気がする。

なんか実はもっといろいろ、もしくはもっと別のことを著者は訴えたかったのかもしれない。他の人が読めばまた、他の受け止め方があることだろう。
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masato (2009年9月28日 22:17) | コメント(0)

「放火」久間十義

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
池袋の雑居ビルで19名の死傷者を出す火災が発生した。新聞記者のまゆ子は真相を究明するため、そして警部補の黒田(くろだ)も警察上層部の動きに不信を感じながらも関係者を当たる。

2001年に起こった歌舞伎町ビル火災を思い起こさせる。実際著者もこの事件をヒントに本作品を描いたのだろう、最初の従業員が脱出するシーンや都市ガスのガスメーターがガス管から外れている点も事件と同じであり、すでに忘れ去った過去の傷ましい事件へと僕の関心を向けさせてくれたが、その一方で、誰にも知られずに夜な夜な放火を繰り返す、というタイトルの「放火(アカイヌ)」という言葉が僕に与えたイメージとその内容はかけ離れているような違和感を感じた。

とはいえ、風俗店に認可を与える公安委員会の事務作業を警察が行うことよって発生する矛盾、すなわち癒着に触れており、物語の視点は非常に面白い。この視点の面白さをもう少し物語の面白さに繋げられないものか、登場人物に誰一人として感情移入できないほどその薄い描写にそう感じずにはいられない、なんとも残念な作品である。


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masato (2009年7月 5日 20:37) | コメント(0)

「ブレイクスルー・トライアル」伊園旬

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第5回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品。

門脇(かどわき)は久しぶりに再会した旧友、丹羽(にわ)の誘いにより、ブレイクスルートライアルというセキュリティ会社が企画するとある施設への浸入コンテンストに参加することを決意する。ともに人には言えない過去を抱えながら、最新の防犯技術を備えた施設への侵入を試みる。

「浸入」を目的として話は展開するから、そこには多くのセキュリティ技術について触れられている。指紋認証や静脈認証がそれである。それぞれのセキュリティシステムの長所や短所にも触れられている点はいろんな興味を掻き立ててくれるかもしれない。

物語としては、門脇(かどわき)を中心とした視点のほかに、その施設への侵入、もしくはたまたま居合わせたいくつかのグループへと移るが、いずれもその描写は感情移入できるレベルとは言い難く、個人的には、どれか一つに絞ってもっと詳細な成長過程などまで描いて欲しかったと感じている。
また、本筋の施設への浸入のくだりも、読んでて手に汗握るというレベルとは程遠く、全体的には、現代のセキュリティシステムに関する描写に適当に登場人物と物語を肉付けした、というレベル。

正直、この作品と言い「パーフェクトプラン」といい、この「このミステリーがすごい!」という賞自体に疑問を感じさせる内容であった。ひょっとしたら審査員達が「新しくなければならない」「ミステリーでなければならない」などのように、何か間違った方向の意識に縛られているのではないだろうか。

アリステア・マクリーン
スコットランドの小説家。スリラーと冒険小説で成功した。『ナヴァロンの要塞』で最もよく知られている。(Wikipedia「アリステア・マクリーン」

ギャビン・ライアル
イギリスの冒険小説・スリラー小説家。(Wikipedia「ギャビン・ライアル」

ジャック・フットレル
アメリカのジャーナリスト・小説家・推理作家。1912年タイタニック号の遭難事故で死亡。(Wikipedia「ジャック・フットレル」

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masato (2009年6月20日 14:06) | コメント(0)

「向日葵の咲かない夏」道尾秀介

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
ミチオは欠席した友人の家を訪れた際、首を吊って死んでいるその友人を見つける。しばらくしてその友人はミチオの元に、蜘蛛に姿を変えて現れる。蜘蛛になった友人の訴えを元にミチオは妹のミカとともに真相を知ろうとする。

幾ページも読まないうちに、その荒唐無稽さ、過去に読んだことのない不思議っぷりに戸惑った。自殺した友人が蜘蛛に生まれ変わってミチオの前に現れた時点で、かなりしんどくなったが、それでも読み続けたのは、物語をそこまで現実離れしたものにしてさえも訴えたい何かが最後にあるのではないか、そう思ったからだ。

最終的にその期待に応えてくれたかというと首をひねらざるを得ないが、まあ、こんな物語もありかな、と納得することはできた。

往々にして誰かの心に深く突き刺さる何かは、ほかの人から見ると逆にひどくくだらなく見えたりする。だから、僕がこういう評価をしたこの作品が、誰かの心を鷲掴みにする可能性もないとはいえないだろう。


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masato (2009年3月 9日 21:53) | コメント(0)

「遠くて浅い海」ヒキタクニオ

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
第8回大藪春彦賞受賞作品。

人を人知れず殺すことを仕事とする正将司は沖縄で、「天才」と称される一人の男を自殺させる依頼を受ける。

本作品で最初に読者の想像を超えるのは、自殺させる対象である天願(てんがん)に対して、将司(しょうじ)が、自らの素性と、目的を早々に明らかにする点だろう。また、「人を自殺させるためにはその人を誰よりも深く理解しなければならない」という将司(しょうじ)のスタンスゆえに、天才であるが故に孤独な天願(てんがん)の過去も見えてくる。

僕自身はそれほど大きな衝撃を受けたわけではないが、新鮮さを感じさせる場面は多々あった。きっとこういう物語が好きな人もいるのだろう。


アミノー
人々の行動を規制していた社会的規範が失われて、混乱が支配的となっている社会の状態。デュルケームが概念化した用語。(はてなキーワード「アミノー」

エミール・デュルケーム
フランスの社会学者。オーギュスト・コント後に登場した代表的な総合社会学の提唱者であり、その学問的立場は、方法論的集団主義と呼ばれる。(Wikipedia「エミール・デュルケーム」

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masato (2009年1月10日 11:01) | コメント(0)

「アクセス」誉田哲也

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
親友の死を境に高校生の可南子(かなこ)の元に奇妙な電話がかかってくるようになる。可南子(かなこ)の従姉妹の雪乃(ゆきの)も不思議な出来事に悩んでいた。共通点は2人が契約したプロバイダだった。

最初は、友人と共通して思いを寄せる男子生徒との間に起こるありがちな女子高生の恋愛模様を描く物語のような印象を受けたのだが、中盤から一変。一気にホラーの様相を呈してくる。

冒頭の美男、美女でありながらも何か空虚さを感じている雪乃(ゆきの)と翔矢(しょうや)の描写によって、物語中に彼らの過去やその性格の生成過程が描かれることを期待したのだが、残念ながら深く掘り下げられることはなかった。

全体的に筋や著者の訴えたいテーマというのが感じられない物語ではあったが、あえてそのテーマを見出そうとするなら、匿名性の守られたネットの世界に吐き出される人々の悪意や残虐性と、現実との間のギャップを表現しているようにも感じられる。

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masato (2009年1月 9日 23:57) | コメント(0)

「オーデュポンの祈り」伊坂幸太郎

オススメ度 ★★☆☆☆ 2/5
コンビニ強盗を試みて逃亡の身となった伊藤(いとう)は小さな島に辿り着いた。そこは少し変わった人々と言葉を喋るカカシがいた。帰ろうとしても逃亡生活が待っている伊藤(いとう)はしばらくこの島で生活することにした。

序盤から伊坂ワールド全快である。どこかで伊坂幸太郎を小説界のシュールレアリストと称していたがまさにその言葉のとおり現実感の薄い物語。前々から伊坂幸太郎の紡ぐ物語と僕の読書に対して求めているものとのギャップは感じていたのだが、先日たまたま手に取った「魔王」が思いのほか良く、再び彼の作品を読んでみようとおもっての本作品だったのだが、ページをめくる手は遅くなるばかり。

物語はその見知らぬ不思議な島で展開していく。1人(?)のカカシの言葉を信じて島から出ようとしない人々の言葉は、時に人々が忘れかけている幸せの形や、しばしばフィルターを通してみている真実を、端的にあらわしている。

個人的に印象的だったのは、生まれながらに足の不自由な人間を見ながら、島のペンキ塗りが言う言葉。

あいつを見るといつも思う。俺はまだマシだって。俺は普通に歩けている。あの男が、奇跡でも起きないかと祈っている願いが、俺にはすでにかなっている。

伊藤(いとう)が島に着てから少しずつ起こる変化。そして島に伝わる言い伝え。

ここには大事なものが、はじめから、消えている。だから誰もがからっぽだ

多くのものが足りないように感じられるにもかかわらず、あえて一つ挙げようとするとその答えがわからない。その答えを島の人々は、島の外から来た伊藤(いとう)に期待する。

人に価値などないでしょう。ただ、たんぽぽの花が咲くのに価値はなくても、あの花の無邪気な可愛らしさに変わりはありません。

印象的な言葉をいくつか得ることができたものの、全体として評価すれば、この長い布石が最終的な結末に対して必要だったのか疑問を感じてしまう。このあたりが感覚の違いなのだろう。また機会があったら別の作品も手にとってみたい。


支倉常長
江戸時代初期の仙台藩士。伊達政宗の家臣。慶長遣欧使節団を率いてヨーロッパまで渡航し、ローマでは貴族に列せられた。(Wikipedia「支倉常長」

リョコウバト
北アメリカ大陸東岸に棲息していたハト科の渡り鳥。鳥類史上最も多くの数がいたと言われたが、人間の乱獲によって20世紀初頭に絶滅した。(Wikipedia「リョコウバト」

ジョン・ジェームズ・オーデュポン
アメリカ合衆国の画家・鳥類研究家。(Wikipedia「オーデュポン」

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masato (2008年12月29日 01:23) | コメント(0)